あるこじのよしなしごと

東京の片隅で、妻と4歳の息子と三人で暮らしています。 ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、遊んだゲーム、育児について、その他日常などを綴っています。

漫画『岡崎に捧ぐ』5巻 感想

ざっくり言うと

漫画『岡崎に捧ぐ』5巻の感想。周囲から愛され、自信と人気を取り戻す山本さん。喧嘩別れした岡崎さんとの再会。杉ちゃんの熱い叱咤。そして『岡崎に笹ぐ』が産み落とされる。

山本さほさんの漫画『岡崎に捧ぐ』5巻(最終巻)の感想となります。なお、作品を紹介する上で、物語の展開についてはネタバレをしています。ご注意・ご了承下さい。

どんな漫画?

山本さほさんが自身の体験談を元にして描いた、エッセイ漫画です。雑誌「ビックコミックスペリオール」で連載されていました(現在は完結)。

山本さほさんがこれまでに接してきたカルチャー、タイトルにも出ている岡崎さんとの友情、子供の頃の万能感、そして成長するにつれて体験する挫折など、幅広い内容が、多くのコメディ要素に若干のシリアス要素を交じえ、描かれています。

なお、過去に1〜4巻の感想にて、漫画全体の魅力について詳細に書きましたので、そちらをお読み頂ければ幸いです。

以下は、5巻(最終巻)の内容に絞っての感想を記載していきます。

5巻(最終巻)について

報われる山本さん

4巻では美大受験での挫折、地元を離れての人間関係など、世間の荒波に翻弄される山本さんの姿が多く描かれており、読んでいて辛くなる場面が多かったです。そんな中、山本さんは自信を喪失していき、それが岡崎さんとの繋がりを絶つ遠因ともなります。

しかし、5巻では横浜で再就職した山本さんが、もちろん悩みも抱えながらではありますが、懸命に働き、少しずつ結果を出していく姿が描かれています。

中でも、アパレル販売として働く山本さんが手作りのチラシで販促を行い、それがお客さんから人気を得るシーンは、美大コンプレックスに陥っていた山本さんが絵を描く事に再び前向きになったことが読み取れ、読んでいて嬉しく感じました。

色々と苦労や接客業の理不尽さなどにも言及されているものの、それまで苦労してばかりだった山本さんが報われる描写が5巻には多かったため、読んでいて救われた気持ちになりました。

新たに編まれる人間関係

また、横浜に戻ってきた事で、かつての友人達がまた登場します。再登場する中学時代からの友人・原口さんと宮部さん、そして高校時代からの友人・ムラタクが、山本さんとの絆を大事にしていた事が分かります。

山本さんを軸に、杉ちゃん・原口さん・宮部さん・ムラタクの間で新たな人間関係が生まれます。しかし、5巻を読んでムラタクさんを非常に羨ましく感じたのは私だけではないでしょう。詳細は省きますが、ムラタクさんは山本さんのサポートで大変多くの物を得たように見えます。

しかし、それも元を辿れば、ムラタクさんの優しさに端を発するんですよね。山本さんは高校時代の辛かったとき、大分ムラタクさんの存在に救われたようでした。

5巻ではこうした、時に人を助け、そして時に人に助けられる、人間の縁について描かれているシーンが多く感じられます。

山本さんに惹かれる人は中高だけではなく、山本さんの新たな職場の中にもいました。それが、こうのさんです。

山本さんは4巻に収録されている60話「ヒーローじゃない」の中で、小さい頃の武勇伝を岡崎さんがその友人らに話している様子をみて、あの頃の私はもういないのに……と独白していました。しかし、店長として働く山本さんに魅力を感じるこうのさんという存在から、山本さんの人を引きつける魅力は色褪せていなかったんだなぁと感じました。

杉ちゃんの熱い叱咤激励

山本さんを取り巻く人間関係の中で、特に色濃く描かれたのが杉ちゃんとの会話の場面です。

山本さんは仕事に対して充実感を覚えつつも、過ごす日々は波の無い繰り返しであり、そうした平穏こそが「幸せ」なのだと思い込もうとしていました。しかし、ある日の杉ちゃんとのサシ飲みの場で、山本さんは杉ちゃんから漫画を描けと言われます。それに対して茶化し半分で無理だと答える山本さんでしたが、その姿勢を杉ちゃんは以下のような言葉で強く叱責します。

山本さんにはがっかりだよ。小学生の頃転校してきた時はすごい人が来たと思ったのに。大人になったらきっと有名になるって信じてた。

それなのに、どんどんつまんない人間になっていくね。岡崎さんも今の山本さんにはがっかりしてるだろうな。

杉ちゃんの発言、かなり厳しいですね。余程の信頼関係が無いと、ここまで強い言葉は投げられないでしょうね。

山本さんは杉ちゃんの言葉に激しく心を揺さぶられます。その後、杉ちゃんに対して、岡崎さんのことを漫画で描きたいと伝えるのでした。

『岡崎に捧ぐ』の中では杉ちゃんについて、お笑い芸人としてテレビ番組「あらびき団」に登場したり、DJとしてCDを出したりと精力的に活動している事が書かれていました。活動する範囲こそ違うものの山本さんと同じ「表現者」である杉ちゃんは、単なる友人というだけでなく、ある種同志的な関係だったのかなと思わされました。

岡崎さんとの復縁

さて、4巻ラストで山本さんとの縁が切れてしまう岡崎さんでしたが、5巻では無事に復縁します。まあ、4巻で縁が切れてそれっきり……という展開で話が終わるとは誰も思わないでしょうし、この点は想定通りですね。

長年連絡を取らなかった理由について、山本さんはこうのさんとの会話の中で、「自分が悪いと思っている。きっと岡崎さんは(自分の行為に)怒っているはず」と語ります。

実際のところは、岡崎さんが怒っているから連絡できないというよりも、山本さん自身が感じる後ろめたさのために連絡できなかったではないかと思いますが……。いずれにせよ、山本さんは岡崎さんの事が嫌いになったという訳ではなく、自分が悪いと思っているが故に連絡ができないという状態でした。

ちなみに山本さんは単行本2巻に収録の24話「親友はひとりだけ(後編)」にて、岡崎さんに行かないと伝えていた夏祭りに、他の子達と遊びに行った場面を目撃されてしまい、それを後から電話で謝るというシーンがありました。ここも岡崎さんに対して山本さんが悪い事をしたという後ろめたさを持っていた状況だった訳ですが、この時は山本さんから電話を掛け、なかなか切り出せないながらも最終的には山本さんの方から謝っていました。

しかし、今回の断絶についてはこの時とは状況も年齢も大きく異なっていました。結果として、山本さんは岡崎さんとの連絡を絶ったまま、実に4年の時が経過します。

そんな中、この時は岡崎さんから電話が掛かってきます。4年の空白を破った岡崎さんからの電話は、彼女のお父さんが亡くなった事を知らせる連絡でした。

岡崎さんと何を話せばいいのか、岡崎さんがもし泣いていたら何て声を掛ければよいか、様々な思いを胸にお通夜に向かった山本さん。

しかし、そこは岡崎家(というか、岡崎さんのお母さん)。ユニークな遺影など、普通のお通夜とは異なる雰囲気の中で、二人は元通りの関係に自然と戻っていきます。

最終的には、山本さんの働きかけもあり、二人は一緒の職場で働く事に! これは驚きました。架空の話ならありそうな話ですが、実話としてそんな事がありうるのが凄い。二人が相当仲が良いんだなと改めて感じられました。

運命の日

杉ちゃんに発破をかけられた山本さんでしたが、なかなか漫画を形に出来ずにいました。岡崎さんと会っている際にその事で考え事をしていると、岡崎さんから声を掛けられます。

杉ちゃんから漫画を描いてみろと発破を掛けられた事や、自分は漫画家になんてなれないという諦めの気持ちなどを岡崎さんに吐露します。そんな山本さんに対して岡崎さんは

大丈夫! 山本さんなら絶対漫画家になれるよ!

と後押ししてくれるのでした。

「山本さんなら絶対、漫画家になれる」。この言葉は奇しくも、小学生の頃に漫画家になりたいと語っていた山本さんに対して、岡崎さんが掛けたものと同じ言葉でした。

こうして、杉ちゃんの叱咤激励と岡崎さんの後押しとに勇気付けられた山本さんの手で『岡崎に捧ぐ』は世に産み落とされることとなります。

岡崎さんは常に自分のことを全肯定してくれるということは、山本さんがかつて自意識をこじらせたファッションをしていたときも褒めるばかりで止めてくれなかった(後から思えば止めて欲しかった)など、山本さんが幾度も書いていたエピソードですが、全てはこのシーンを描くための伏線だったのかなとも思いました。

ちなみに、杉ちゃんが常に山本さんに厳しい態度だったのかというと、そんな訳でもなく、杉ちゃんも山本さんの描く漫画に対しては「最高!」などの肯定的な感想をくれていたようです(これは山本さほさんへのインタビュー記事にて書かれていました。詳細は後述)。

山本さんは美大受験の予備校に通っていた頃は、コワモテの講師陣に常に批判され、萎縮していたような描写がありました。それとの対比で、人から期待され、褒められるという事がどれだけ安心感を得られ、モチベーションに繋がるのかということを感じさせられます。

『岡崎に捧ぐ』は終わらない

岡崎さんが山本さんの事を後押しするエピソードは、最終話ではなくその一つ前の75話「運命の日」で描かれます。最後まで読んでから思ったのは、75話の方が最終話よりもむしろ最終話らしいという事でした。

登場人物の近況などが語られているという点など、確かに最終話としての体を成している要素は見られます。しかし、あくまで私個人の感想になりますが、最終話に漂う全体的な流れに、話の節目や物語の完結という雰囲気をあまり感じないのです。

しかし、それも当然の事なのかもしれません。というのは、山本さんが岡崎さんや杉ちゃんと過ごす日々は今もなお続く日常であるからです。良い意味で最終話らしくない最終話は、現在進行形で『岡崎に捧ぐ』のエピソードが形作られている事を象徴しているのかもしれません。

まとめ&おまけ(山本さほさん/杉ちゃんのインタビュー・対談記事のご紹介)

取り止めのない書き方になりましたが、以上が『岡崎に捧ぐ』5巻を読んで思ったこととなります。

杉ちゃんのように強く励ましてくれる友達と、岡崎さんのように自分の全てを肯定してくれる友達。両方と巡り会い、関係を育むことができた山本さんは本当に幸せだと思いました。それは、ただ山本さんの運が良かったとかそういう話ではなくて、山本さん自身の持つ魅力が、二人との縁を引き寄せるに至ったという事なのだろうと思います。

最後に、こちらは感想とは異なりますが、本作品を読んだ上だとより楽しめるインタビュー記事・対談記事をご紹介します。

一つ目は『岡崎に捧ぐ』3巻が刊行された際に掲載された岡崎さんへのインタビュー記事です。

「岡崎に捧ぐ」山本さほインタビュー - コミックナタリー 特集・インタビュー

こちらの記事では『岡崎に捧ぐ』を描くに至った経緯等について、山本さんご自身がインタビューに答える形で書かれています。

なお、この記事の中では最終巻で描かれる展開の一部についても結果的に言及されているため、できれば原作を読み終えてから本記事を読むほうがよいかと思います。

二つ目は、杉ちゃん(下記の対談の中では"ディスク百合おん"さん名義)が「コンビニかけ合わせグルメ」に関する本を刊行した際の記事です。杉ちゃんと山本さほさんとの対談が載っています。

『岡崎に捧ぐ』の杉ちゃんが『コンビニかけ合わせグルメ』本を出した! ディスク百合おん×山本さほの幼なじみ対談【前編】 | ダ・ヴィンチニュース

ピノ+クロワッサンの「ピノワッサン」は背徳の味! ディスク百合おん×山本さほが「コンビニかけ合わせグルメ」を語る【後編】 | ダ・ヴィンチニュース

メインの内容は、あくまで杉ちゃんが刊行した本ないしコンビニかけ合わせグルメに関するものですが、その他に杉ちゃんから見た山本さんなどにも言及されている部分があるため、『岡崎に捧ぐ』を読んだ方であれば、興味深く読むことができると思います。

以上、『岡崎に捧ぐ』5巻の感想でした。

岡崎に捧ぐ (5) (BIG SUPERIOR COMICS SPECIAL)

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