漫画『笑ゥせぇるすまん』第15話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。
第15話「空手道」
お客様について
サラリーマンの烏森喜一です。空手との関連がある語句とのゴロを考えてみましたが、特に見つかりませんでした。この頃はまだ、普通の名前のお客様が多いですね。
烏森は同僚の粗相によって、街のチンピラに絡まれてしまいます。ちなみに喧嘩をうっかり吹っ掛けてしまった同僚はこの直後に逃走。
チンピラどうこうというより、この同僚の振る舞いのクズ度が高過ぎる気がしますが、ともあれ烏丸さん絶体絶命のピンチに!
ここで颯爽と現れた喪黒さんが何故かアメリカンクラッカーによる催眠術とドーン!でチンピラを撃退します。
喪黒さんはたまに攻撃手段としてもドーン!を使います。特に演出多めなアニメでは、しばしば登場します。漫画の方が出現率は低めかな。
ちなみにこの話でドーン!が登場するのはここだけです(笑) お客様の烏森相手には発動しませんでした。
喪黒さんは、男たるもの護身術の一つは身に付けたほうが良いと烏森に話します。それを聞いた烏森は消極的な姿勢ではあるもののそれを肯定し、空手で強くなった自身の姿を夢想するのでした。
剛々流空手指南
翌日、逃げた同僚からその後の様子を聞かれた烏森は、誰も顛末を知らないのを良い事に「毅然とした態度でいたら諦めて行ってしまったよ」と格好付けるのでした。
誰も知らないと思って嘘を吐く・見栄を張るというこの展開は、笑ゥせぇるすまんにおいて紛う事なき死亡フラグです。この態度を取った人間は必ず不幸な目に遭います(まあ、お客様に選ばれた時点で既にアウトという話もありますが……)。
そこに突如現れた喪黒さん。何といきなり空手の先生を連れてきました。
単なる世間話として空手を習う云々という話をしていたつもりの烏森は、最初こそ入門に対して二の足を踏むものの……
先生に対する恐ろしさもあり、結局は喪黒さんに流される形で入門してしまいます。
A先生と空手について
少し話が脇道にそれますが、藤子A先生は極真空手の稽古に通っていた時期があったそうです。漫画家のつのだじろう先生に誘われて、一緒に入門したのだとか。
つのだじろう先生といえば、『恐怖新聞』や『空手バカ一代』を描いた事で有名ですね。しかし、A先生の『まんが道』を読んだ方であれば、デビュー作を描きあげる時のエピソードが忘れられないと思います。
『新・桃太郎』というデビュー作を描きあげるにあたり、つのだ先生は師匠の島田蟹三先生に出来をチェックしてもらいました。その際、たった3ページの原稿について10ヶ月に渡って描き直しを命じられたが挫けずに頑張ったというエピソードがありました。この事は子供の頃にまんが道を初めて読んだ自分にとって、鮮烈に印象に残りました。
ちなみにA先生は極真空手に入門後、半年ほどで海外旅行に行く事を契機に稽古に通わなくなり、つのだ先生は2年ほど稽古に通ったとの事でした(連載多忙により離脱)。
作中に登場するボールを蹴る練習は、極真空手の鍛錬として実際にあるそうです。A先生の修行の成果が表れているといえますね!
調子に乗りやすい顔?
閑話休題。稽古初日を終えてヘトヘトになる烏森でしたが、喪黒さんのお世辞によって、すっかり気分を良くするのでした。
ここまでの展開というか、話の雰囲気に何処となく既視感を覚えました。何処かで見たようなこの感じ……。
思い出しました。第8話で運転免許取得のために奮闘する浦成さんに似てるんですね。
小心者の割にお世辞に弱く、調子に乗りやすい。似たような性格をしています。白目の部分といい、細くやや曲がった顔の作りといい、共通点が多いですね。
リベンジマッチ
さて、そんなある日、街を歩いていた烏森さんと喪黒さんはある人間に出会います。
そう、以前、喪黒さんが撃退したチンピラでした!
今回も喪黒さんがいるから楽勝……と思いきや、喪黒さんは「ちょっと失礼!」と言って、烏森さんの身体を押し出し、逃げてしまいます。
チンピラにしてみれば喪黒さんにやられた雪辱を果たすチャンス。一方、烏森さんも喪黒さんに助けてもらっただけで、彼らに対しては遺恨があります。双方にとってのリベンジマッチ。
そして、烏森さんは以前の烏森さんではありません。剛々流空手を身に付けた男です。果たしてどちらが勝つのか……!?
勝敗の結果はニュースで流れる事となりました。ラジオから流れるニュースを聞く喪黒さんのカットで、物語は幕を閉じます。
烏森さんの落ち度は何だったのか
この話はお客様の心の葛藤があまり感じられず、ただただ烏森さんが喪黒さんに流されていくという内容でした。そういう意味では、個人的にはイマイチなお話です。
烏森さんの落ち度はひとえに、他人に流されて自身の意図に沿わない選択を重ねてしまったところにあったと思います。
空手道場に深く考えずに入門してしまったことが第一、チンピラと喧嘩したのが第二です。後者は自身の選択にもみえますが、実質は喪黒さんに唆されてという側面が強いでしょう。
しかも前述の通り、喪黒さんは烏森さんに対してドーン!を行使していないのです。にも関わらず、喪黒さんの思うがままに動いてしまいました。
喪黒さんの申し出を都度、毅然に断れていれば……しかし、それが出来ない人だからこそ、喪黒さんにお客様の素質ありと見出されてしまうんですよね。恐ろしいです。
以上、『笑ゥせぇるすまん』第15話の感想でした。