あるこじのよしなしごと

東京の片隅で、妻と4歳の息子と三人で暮らしています。 ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、遊んだゲーム、育児について、その他日常などを綴っています。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第21話「月下美人」感想

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第21話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。

第21話「月下美人」

お客様について

サラリーマンの左保典和です。名前の由来は、本エピソードのテーマである月下美人がサボテン科の植物である事からと思われます。

佐保は夜の公園で喪黒さんと出会います。佐保は自宅の居心地の悪さから帰宅恐怖症になっており、勤務後、公園で時間を潰す日々を送っていました。

昨今でも、勤務後に家に帰らないサラリーマンを指す「フラリーマン」という言葉がありましたが、もう1990年には同類の話が社会問題になっていたんですね。 

この漫画を読むと、日本社会の根底にあるものは昔からそうそう変わっていないのではないかとしばしば思わされます。

喪黒さんは、佐保のやり甲斐のために月下美人という花の植木鉢をプレゼントします。この花に愛情を注ぐ事を一つのやり甲斐とする事で、家にいる時間を楽しめるようにとの計らいでした。

月下美人とはどんな花なのか。喪黒さんの言葉を引用すると、

月下美人は一年に一度、月の夜にパッと咲いて、まもなくしおれてしまうのです。

まさに"花のいのちは短くて……"という歌のとおりの、はかない花です。

でも、それがひとしおロマンチックなのです。

との事です。しかし、第19話の時といい、喪黒さんはロマンチックという言葉をよく口にしますね(笑) 

さて、植木鉢を持ち帰った佐保。それを妻からは見咎められ、また妻との諍いの様子に集中できないと腹を立てる息子に怒鳴られながらも、自室に月下美人を持ち込む事に成功します。そして以後、せっせと世話をする事にしたのでした。

月下美人の行く末は

月下美人の世話を始めてからというもの、佐保は家に帰るのが楽しみになったようでした。月下美人が咲くと思われる日も近付き、まさにココロのスキマが満たされた状態です。

しかし、佐保が月下美人の世話を楽しみ、会社からの帰宅後、妻に声もかけずに自室に向かうようになった様子などから、妻は苛立ちを募らせます。

そんなある日、佐保の妻が恐ろしい奸計を仕掛けます。

それは、月下美人のツボミを天ぷらにして、他ならぬ佐保自身に食べさせるというものでした。これは酷い……。

悲しみのあまり、寝間着のままで外に出た佐保は、喪黒さんにその事を伝えます。

取り返しがつかない事をしでかしてしまったと嘆く佐保を救済すべく、喪黒さんはある方法で佐保の望みを叶えるのですが……。

フラリーマンの原因

このエピソードにおける佐保のココロのスキマは、家に佐保の居場所がなくなった事がきっかけで生まれたといえます。

フラリーマンという存在については、NHKが特集した以下の記事がなかなか面白かったです。

フラリーマンの立場にある人間とその配偶者、それぞれの視点から、フラリーマンの是非について語られています。

佐保家の場合、妻や息子の態度が冷たかったため、佐保はフラリーマンになってしまう訳ですが、何故家庭が冷え切ったのかは気になる所です。

話の主眼では無いため、こんな部分は作中で特に語られませんが、佐保が妻に声もかけずに自室に向かうという点をみても、妻だけが悪かったようにはどうにも思えません。

佐保の家庭を顧みない・向き合わない態度が、こうした冷え切った家庭を生み出したのではないかとも想像してしまうのです。

ただ、妻の月下美人を天ぷらにして佐保に食わせるという陰湿なやり口からは、妻の人間性の問題が諸悪の根源であるのかもしれないとも思わされます。

いずれにせよ、家庭内の不和を回避するためにも、日常の中で対話を重ねる事を大事にしようと、本エピソードを読んで改めて思うのでした。

アニメ版『月下美人』と『月夜のオーキッド』

この話もアニメ版は存在するのですが、不思議な事にタイトルが『月夜のオーキッド』というものになっています。

オーキッドとは洋ランのことです。胡蝶蘭とかカトレアとかがこれに当たり、アニメ作中で主人公が育てるのは月下美人ではなくカトレアになっています。

更に不思議な事には、アニメ版では『月下美人』というタイトルの話が別に存在し、そちらは漫画版の『月下美人』とストーリーが異なるのです。

ちなみにストーリーとしては、内気な青年の主人公が花屋で働く女性を見初め、喪黒さんが月下美人をダシに近付くよう主人公に進言するも、最終的には失恋するという内容です。

しかし、何故、このような事が起こったのでしょうか? 

何故、二つの『月下美人』が存在するのか?

この謎について、放映時の状況から想像してみました。

まず、前後関係を確認したいと考え、アニメの『月下美人』が放映された日を確認しました。こちらはWikipediaの情報が正しいとすると、1990年8月7日でした。

次に、漫画版について。こちらはいつ掲載されたかはっきりとした情報が見つかりませんでした。そのため、連載時の掲載順でそのまま文庫に収録されたと仮定すると、本作は「中央公論」での連載2話目となります。中央公論での連載は1990年7月号からなので、この話は1990年8月号で掲載されたと考えられます。

中央公論の1990年8月号の発売日が分からなかったので、明確にどちらが先に世に出たかは分かりませんでしたが、漫画版とアニメ版の『月下美人』が非常に近い時期に発表されている可能性が高いことが分かります。

この事実から、幾つかの可能性を想像しました。

【可能性1】漫画版とアニメ版で内容を変える事で、視聴者を驚かそうとした

まず考えたのがこの案です。

しかし、もしそんな悪戯心から行われた事だとしたら、もう一度くらいは同じような事が引き起こされていても良さそうに感じました。

残念ながら、『月下美人』以外にはそうした事態が起こっておらず、可能性としては低いかなと思いました。

【可能性2】A先生がアニメ版オリジナルの『月下美人』のタイトルから連想して話を創作した

次に考えたのがこの案。1990年8月時点では、既にアニメオリジナルの話が何度も放映されている時期になっていました。

そこで、ネタに詰まったA先生が、アニメオリジナルの話のタイトルや内容をスタッフに聞いて、そこから連想して漫画の話を考えたのでは?と考えました。

しかし、これは明確に違うと考えました。もしそうであったならば、話の筋もアニメ版と一緒の内容にするか、あるいは漫画版のタイトルを『月下美人』から変えて発表したはずです。漫画版の掲載時にタイトルを元ネタに利用したアニメ版のままにするというのは理解に苦しむ行為です。

しかし、上の推論から、一つの理屈が成り立ちます。すなわち、アニメ版が先に出来ていて、それを下地にしたなら、まず間違いなくタイトルは『月下美人』から変更しただろうということです。

よって、タイトルが被っているという事は、先に出来たのはやはり漫画版の『月下美人』であったに違いないという論理が成り立つと思うのです。

これらを経て、最終的に私が考えた結論は以下の考えです。

【可能性3】漫画版『月下美人』の完成がアニメ製作の〆切に間に合わなかった

おそらく、これが真相でしょう。

アニメ製作班は原作を手掛ける藤子A先生から『月下美人』という作品のタイトルを確認していた。しかし、肝心のA先生の原稿の出来上がりが遅れた。

タイトルはこの時点で、もう変更が難しい状況だったのでしょう。しかし、放映スケジュールに合わせるためにはアニメの製作に着手しなければならなかった。

そこでアニメ製作班は、タイトルから自分たちでオリジナルの脚本を作ったのだと思います。

そんな考えの元にアニメ版の『月下美人』について観てみると、内容が良くも悪くも美しく、素直なエピソードである印象を持つと思います。A先生のアイデアにしては、ラストの展開・内容に捻りが少ないように感じるのです。

 

……と長々書きましたが、この考えはあくまで単なる想像です。

実際にはアニメ版もA先生が原案を考えている可能性もあります。もしそうだったら、上の推論は大ハズレという事になるので、恥ずかしい限りです。

以上、『笑ゥせぇるすまん』第21話の感想でした。