ボードゲームが好きな天王寺ユリアとボドゲ初心者の南森ゆきが出会う話。"バランス型"の『放課後さいころ倶楽部』に対して、本作は"一点突破型"のボドゲ紹介漫画。
こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
漫画『天王寺さんはボドゲがしたい』1巻の感想です。感想を述べる中で、あらすじや作中の展開に多少言及しています。
どんな漫画?
作者はmononofu(もののふ)さん。竹書房の雑誌「キスカ」で連載されています。
作品概要については本作品1巻の紹介文面を引用します。
クールで無口、容姿端麗、運動神経抜群、成績優秀……誰もが気になるミステリアスな帰国子女、天王寺ユリア。
そんな彼女を一方的にライバル視する南森ゆきは、ある日、 ユリアの本当の(?)姿を目撃!
ゲームをしながら一喜一憂するユリアの姿に、 ゆきは「ボードゲームの不思議な世界」へと惹かれていく――。
タイトルに含まれているボドゲとはボードゲームの略語であり、その名の通りボードゲームをテーマにした漫画です。
なお、実在のボードゲームをテーマとする漫画として先駆的な存在が『放課後さいころ倶楽部』という作品です。
放課後さいころ倶楽部 (1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)
- 作者: 中道裕大
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/09/12
- メディア: コミック
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以下の感想では、本作と『放課後さいころ倶楽部』との対比についても言及しています。
主に登場するボードゲーム
ガイスター
冒頭、赤のコマ(悪いおばけ)を取ってしまい、負けが決まる天王寺の姿が描かれています。これは二人専用のゲーム、ガイスターです。将棋に似ていますが、よりシンプルに遊ぶ事ができ、それでいて心理戦の要素も楽しめる傑作です。
カタン
手札が沢山ある状態でダイスを2個振った際に「7」の目を出し、ペナルティを受けるユリアの姿。カタンですね。ドイツボードゲームの代名詞的な存在です。なお、1巻の表紙にもカタンの絵が採用されていました。
サウマウマウ
前に挙げた2つに比べて、知名度が大分下がりました。ブタがボード上を回ってレースを行うゲーム、サウマウマウです。
いわゆるUNOの要領でカードを出し、手札の消化を目指しつつ、同時にブタを進めるレースゲームを行い、更には一着になるブタがどれかを予想する賭けの要素まで入ったごった煮のようなゲームです。
簡単にゲーム内容について言及すると、手札の消化か、ブタがゴールするかのどちらかが満たされた時に、それを達成した人に得点が入ります。また、手札からカードを出さずに補充する際に、どのブタが一位になるかを予想し、その予想が当たる事でも得点が入ります。これを複数ラウンド繰り返し、最も得点が高かった人が勝ちとなります。
魔法の掃除機
最後は魔法の掃除機です。これは作者さんが思い入れがあるゲームのようで、ルール説明からプレイ中の様子までじっくり描かれます。
ちょっと驚いたのはこのゲームは国内で絶版のため日本ではなかなか手に入らないという点です。
普通、読者が同じく遊びたいと思った際に、実際に手に入るゲームを紹介したほうが何かと作者さんも気楽であり、無難だと思うんですよね。そこを敢えて絶版の作品を持ってくるあたり、本当にこのゲームが好きなんだと伝わってきました。
ちなみにこのゲーム、日・米のアマゾンでは見つかりませんでしたが、独アマゾンでは見つかりました。海外から輸入してでも遊びたいという方のために、以下に商品ページへのリンクを張っておきます。
ドイツアマゾンでの購入なので、送料が非常に高そうですが……。この作品がきっかけで国内流通が復活したら、嬉しいですね。
感想
放課後さいころ倶楽部とは異なるアプローチがされた作品
遊んでいるゲームを上で挙げましたが、ガイスターやカタンあたりは有名なものの、サウマウマウと魔法の掃除機はそれに比べて知名度が低く、また魔法の掃除機に至っては上述の通り絶版です。
『放課後さいころ倶楽部』では、ある程度ゲームの入手しやすさやテーマなど、バランスを見ながら登場するゲームが選ばれており、その多様性からボードゲームの面白さを伝えようとしている感じを受けています。強いて言うなら、放課後さいころ倶楽部はバランス型というところでしょうか。
一方で本作は、自身が好きなボードゲームの事を一心に描きたいという気持ちが先で、取り扱われるゲームの入手しやすさ等までは敢えて考慮していないようにみえました。この点から、本作は言わば一点突破型とでも表せるかと思います。
これはゲームに関する説明の多寡からも感じたことです。『放課後さいころ倶楽部』は一話で一つのゲームを取り上げ、説明するのが原則です。他方、本作ではガイスターやカタン、サウマウマウは登場こそするものの、ゲーム内容の詳細説明はありません。しかし、魔法の掃除機は二話分のページを使ってゲームのテーマやルール説明を行い、更にゲームの終了までを描写しています。本作はゲームによって説明の有無ないし分量が変わるようです。
ゲームによって説明の緩急をつけるという本作の特徴は今後も続くものと推測しています。それによって、既に存在している『放課後さいころ倶楽部』との差別化が図られているのだと思われます。
これは嬉しい事だと私は感じます。様々なゲームに触れてみたい、紹介して欲しいと思う反面、あるゲームにフォーカスしてプレイの様子等をじっくり描いて欲しいという気持ちもあるからです。ただ、これらはどうしてもトレードオフの関係のため、両方を一つの作品で満たすのはまず無理です。そのため、現時点で結果的に両作品が住み分けるような形になっているのは有難いと感じるのです。
話の軸は天王寺と南森の2人
本作のストーリー展開についても触れると、本作は今のところ、ボドゲ初心者の南森と表題の天王寺の二人の物語として捉えられそうです。彼女らの他にもボードゲームクラブに3名の女子がおり、それぞれ個性がありますが、本質的にはこの二人の関係性が主軸であるように感じます。
比較的、多数の登場人物が交錯する『放課後さいころ倶楽部』とは、この点でも対照的といえます。
帰国子女・天王寺ユリア
主人公であるユリアについて。彼女はドイツからの帰国子女という設定です。
そのため、時々ドイツ語が飛んでくる場面があります。これは「上手くいった!」という意味のようですね。この後にカタンで騎士カードを使って必要な資材が入った的な描写があるので、狙っていた資源カードを他プレイヤーから上手く引けた喜びから出た言葉と思われます。
こちらは「信じられない!」という意味のようです。サウマウマウを遊んでいる最中で、この後に自身の手番で山札からカードを補充しようとしている描写があります。台詞に付されている表情からして良からぬ事が起きているようなので、前のプレイヤーである桃谷によって場札の色が自身の出せない色に変えられたか、あるいはそれまでのレース状況が大きく変動したために一着となるブタの予想を変えたいのか、そのいずれかだと思われます。
たまに出てくるドイツ語がどういう意味なのか、調べてみるのも面白い作品です。
作中人物の苗字・名前について
先程、桃谷というキャラクターがいる事に軽く触れましたが、その他には堺・難波などの苗字のキャラクターが登場します。主人公格の天王寺や南森という苗字も含め、いずれも大阪の地名から取られているようですね。
ちなみに、南森は地名だと厳密には「南森町」みたいですね。この点、ただ単に大阪の地名から選ぶだけなら、わざわざ「町」という語を取る形での改変が必要な南森町を採用するのは少し不思議に思いました。主人公格のキャラクターの苗字である事も含めて考えるに、作者さんの何らか思い入れのある場所なのでしょうか?
苗字に関する話題を出したところで、ユリアという名前にもついでに言及します。Juliaという表記のドイツ語読みですね。調べてみると、この名前には「若々しい」「優しい」といった意味があるそうです。
更についでに『放課後さいころ倶楽部』に登場するエミーこと、エミーリア についても調べてみました。表記はEmiliaとなり、意味は「競争」だそうです。ゲームに真摯な本人のキャラクターを考えると、ぴったり当てはまる気がしますね。
まとめ
本作はボードゲームをテーマとした漫画作品です。先駆的存在の『放課後さいころ倶楽部』が入手しやすいゲームを広く紹介するのに対し、本作は作者が思い入れの強い作品を重点的に紹介するスタイルと思われます。そのため、同じボードゲームというテーマを扱う作品でありながら、差別化が上手く図られていました。
2巻以降、南森がどのように天王寺との関係を深めていくのか、そしてどんなゲームが紹介されるのか、先が楽しみな作品です。
以上、『天王寺さんはボドゲがしたい』1巻の感想でした。
§ 本記事で掲載している画像はmononofu/『天王寺さんはボドゲがしたい』より引用しています。