あるこじのよしなしごと

東京の片隅で、妻と4歳の息子と三人で暮らしています。 ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、遊んだゲーム、育児について、その他日常などを綴っています。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第35話「マンガニア」感想

ざっくり言うと

お客様は古漫画のコレクションが趣味のサラリーマン。喪黒さんは彼にある稀覯本の鑑定を依頼するが……。コレクションは程々に、その趣味本来の楽しみを忘れない事が重要というメッセージが込められた話。

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第35話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。

第35話「マンガニア」

お客様について

サラリーマンの中念宅次です。名前の由来は、中年のマンガオタクで子ども(児:じ)のようだから? でしょうか。ちょっと分かりづらいです。もし、よりエピソードと関連した由来が分かる方がいましたら、コメントで指摘頂けたらありがたいです。

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中念の趣味は昔の漫画のコレクションです。マニアが集まる古漫画店に時々寄っては、目ぼしい物がないかをチェックしています。漫画のマニアで「マンガニア」というわけですね。

ある日、中念は古漫画店の中で喪黒さんとひょんな事から出会います。

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喪黒さんは中念の姿にココロのスキマを感じ取り、自身が30万円(!)もの大金で購入した手塚治虫先生の『ジャングル大帝』の初版本を中念にプレゼントします。

大喜びの中念でしたが、帰宅後に彼の趣味を快く思わない奥さんからは「人から貰ったなどと嘘をつくな、どうせ自分で買ったのだろう」と追及を受けます。困った中念はというと

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「五千円で買った」と伝えて奥さんの追及を逃れたのでした。その金額のあまりの安さを聞いて、多少憮然としている喪黒さんがユーモラスです(笑)

しかし、いくら本当の事でも、30万円の物をプレゼントしてくれた本人の前でこの事実を臆面もなく語れてしまうあたりに、中念の気遣いの無さを感じてしまいますね……。喪黒さんがお客様に選ぶ人は浮世離れした人が多い印象ですが、中念もお客様に選ばれるべくして選ばれたという印象を受けます。

稀覯本の誘惑

ある日中念は喪黒さんから、一冊の漫画本の価値について質問されます。

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その漫画のタイトルは『LAST UTOPIA 最後のユートピア』。これは!? と口走っている中念はこの本がいかにも価値がありそうだと半ば分かっているようでしたが、馴染みの古漫画店の店主に確認を取ります。

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すると、付いた値段が300万円! とんでもないお宝本でした。

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ちなみにこの漫画は藤子先生たちにとって最初の単行本である『UTOPIA 最後の世界大戦』がモデルですね。

この作品は漫画家として本格デビューする前の藤子先生たちが手塚先生の元を訪れた際に見せ、その後手塚先生の手で編集部に持ち込まれた結果、単行本化されるというドラマチックな背景をもつ作品です。

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自身にとって初の単行本が出版社から届き、そのことを若かりし頃の藤子先生らが大いに喜ぶシーンが『まんが道』の7巻にて描かれています。

なお、モデルとなったこの本の現代における価値については、以下の記事で取り上げられていました。

2015年時点では400〜500万円とのことでした。凄い価値ですね。

ちなみにこのエピソードが連載された当時の日本の貨幣価値と2015年とを比較すると、およそ1.1倍です。もし単純に作中の価値を維持したとすると、300万円の一割増しで330万円ということになります。実際には上で書いた通り400万円以上の値がつくという事ですから、年代を重ねて更に価値が高まっていることが分かりますね。

なお、『UTOPIA 最後の世界大戦』は今では復刻版が発行されています。コレクションとしての価値は見出せませんが、純粋に作品を読むという面ではこれで困りません。かつての稀覯本がこんなに手軽に読めるなんて、良い時代です。

UTOPIA 最後の世界大戦 (復刻名作漫画シリーズ)

UTOPIA 最後の世界大戦 (復刻名作漫画シリーズ)

 
藤子・F・不二雄大全集 UTOPIA 最後の世界大戦/天使の玉ちゃん

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さて、この本の真の価値を知った中念は喪黒さんにどう説明するかというと

店主もこのマンガは知らない…そうです

と嘘をつきました。価値があると喪黒さんには伝えなかったのですね。しかし、その後に

喪黒さん、この本ぼくが買ってもいいですけど…そうですね、五千円、いや一万円でなら…

と購入したい意思を伝えます。さも仕方ないが引き取ってあげるという態度なのが、事情を知っている読み手からすると腹立たしく感じられます。

何の価値も無いという本に支払う金額としては不自然極まりないのですが、念中は必死さのあまりそれに気付かないのでしょうか。喪黒さんが渋る様子をみると、念中は更に二万円、いや三万円と買い値を上げていきますが……。

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やはり喪黒さんはこの漫画の価値に気付いていました。読み手からすると、スッとする展開です。

しかし、嘘をつかなければプレゼントしようと思っていた……と喪黒さんは語りますが、果たしてどうでしょうか。確かに実際、中念が嘘をつかなかったならば、喪黒さんはその本をプレゼントしたのでしょうが、喪黒さんからすれば中念が嘘をつくのは分かりきっていたことなんですよね。ここで嘘をつくような人間だからこそ、喪黒さんにお客様として選ばれてしまっている筈なのですから。

趣味本来の楽しみとコレクションする行為の関連について

喪黒さんにお仕置きのドーンを受けた中念。その結果、奥さんに自身の漫画コレクションの全てを勝手に古本回収に出されるというペナルティを受けます。

死亡する、廃人になる、大怪我をする、財産を失う……といった喪黒さんによる各種の罰をみていると、このペナルティはまだ軽い方という印象を受けるものの、コレクターにとっては地獄のペナルティですよね。

私自身、趣味の一つにボードゲームというものがあるのですが、この趣味は収集欲を駆り立てられる性質を持っています。数えてはいませんが私の家にあるボードゲームの数は少なくみても100を下らないでしょう。そして、これは決して収集数としては多い方ではなく、むしろボードゲームを趣味とするのであればまだ少ないほうとすら言えます。

ボードゲームという趣味が収集欲と密接に絡むのは、

  • 人気の高いゲームでも、販売されてしばらくすると絶版になるケースが多い
  • 一度絶版になると、再販されるまで非常に時間がかかる
  • そもそも再販が掛かるかも分からず、余程の人気・評判でなければ二度と販売されないこともザラ
  • 版元の多くが海外のため再販要望等を日本から出しても望みが薄い

といった実態があることが影響しています。

つまり一度買い逃すと、その後に欲しくなったとしてもいつ手に入るか分からないんですね。そのため、実際に遊んで面白かったゲームだけでなく、面白そうな見込みがあるゲームという時点で、とりあえず購入・確保するのが重要になってきます。

しかし、こうなってくると、本来なら遊ぶために購入するはずのゲームが、いつの間にか買い逃さない事を重視しての購入となり、結果どんどん増えていってしまうんですね。

中念の漫画とは対象こそ異なりますが、そうした収集という要素が密接に絡むボードゲームという趣味を持っている自分にとって、このエピソードは痛い所を突かれるというか、人ごとじゃないなという気にさせられました。

ところで、もし喪黒さんが絶版で、知る人ぞ知る名作を私の眼前に差し出し、鑑定を求めたらどう答えるだろうか……中念のように素知らぬ顔をして、詐取しようとしてしまうのでしょうか?

良い子振る訳ではないですが、自分だとそうはならない気がします。というのは、多くのマニア的嗜好の人の場合、それを知らない振りをして詐取することを考えるより、その逸品を自分が知っているという知識を披露したいという自己顕示欲の方が先に立つんじゃないかと思ったからです。マニアであればこそ、嬉々としてその作品の薀蓄を語り出すんじゃないでしょうか?(笑)

そうした意味では、この作品における念中はなかなかクレバーというか、上手くその辺の気持ちを押し殺して対応したなあと感じます。あるいは知識があやふやで、稀覯本であるという自信を持ちきれなかったという事なのかもしれませんが……。

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本エピソードのラストで喪黒さんは、マニアにとって価値のある漫画本を通りがかった一人の少年へと無造作に手渡します。少年は喪黒さんの言う通り、気晴しとして純粋に楽しむために、この漫画を読むのでしょう。

漫画本来の楽しみは読んで面白さを味わうことであって、集める事が主眼ではない。そんなメッセージが、このラストには込められているよう感じました。

これは、私が趣味とするボードゲームにも通じるポイントがあるように思います。元々はそれで遊びたくて集め始めた筈なのに、いつの間にか集める事が目的になり始めているというのは、私自身も時々感じるところです。

コレクションする事が悪いという訳ではないし、個人の楽しみなので自由にすればいいと思うのですが、何故それをコレクションしているのかという原点に時々立ち返ってみるというのは、収集が絡む趣味を持っている場合に必要なのだろうとこのエピソードを読んで強く感じさせられました。

以上、『笑ゥせぇるすまん』第35話の感想でした。


§ 本記事で掲載している画像は藤子不二雄A『笑ゥせぇるすまん』より引用しています。


 

まんが道(7) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

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笑ゥせぇるすまん (2) (中公文庫―コミック版)

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