あるこじのよしなしごと

妻・息子2人(2014生:小麦アレ持ち/2019生)と四人で暮らしています。ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、育児、その他日常等について綴っています。

漫画『Wizard's Soul 〜恋の聖戦〜』感想/カードゲームが強いことが賞賛されるifの世界が舞台のTCG&恋愛漫画

ざっくり言うと

「Wizard's Soul」というカードゲームの強さが全ての評価軸となっているifの世界を描いた作品。カードゲームと共に、主人公・一ノ瀬まなかの恋愛模様が描かれる。ゲーム好きにとってはとても面白い作品だが、ゲームに興味の薄い人が楽しめるかは微妙なところ。

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

漫画『Wizard's Soul 〜恋の聖戦〜』を読んでの感想です。感想・考察の性質上、設定や展開について一部言及しています。

どんな漫画?

概要

作者は秋★枝さん。『煩悩寺』『恋は光』などのラブコメ作品が有名な漫画家さんです。なお、『恋は光』については紹介記事を書いていますので、宜しければそちらをご覧下さい。

本作品は雑誌「月刊コミックフラッパー」で連載された作品で、全4巻で既に完結しています。

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「Wizard's Soul(ウィザーズ・ソウル。以下、WSと呼称)」というTCG(トレーディングカードゲーム)が国際的なスポーツとして浸透しており、ゲームが強ければ就職・進学など人生設計も思いのまま、また異性にもモテまくるという、ifの世界を舞台とした作品です。

主要登場人物

一ノ瀬まなか

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本作の主人公です。実はWSの実力は高いのですが、ある理由からWSをプレイする事を忌避しており、その強さを隠して過ごしています。父がカードゲーム絡みの詐欺に遭い、借金を抱えることになったため、その返済のためにWSの大会の賞金を狙って参加することを決意します。

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ゲーム中は相手の魔法を打ち消したり、あるいは逆手に取るなど、搦め手的な戦術を得意としています。そのプレイ内容が対戦相手にとってはストレスフルな事から、ひんしゅくを買うこともあり、またそれを自覚しています。

櫻井瑛太

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一ノ瀬まなかが恋する少年です。WSが大好きでその実力も高いです。瑛太のほうもまなかが好きでしたが、WSの大会に出るために必要な戦績ポイントを稼ごうとするまなかによって、半ば騙し討ちのような形で敗北し、戦績ポイントを奪われてしまった事で一時的に関係を断絶します。

しかし、まなかの対戦相手に対する容赦ない強さを見て、逆に彼の恋心は強くなります。作中では彼のプレイ内容詳細が描かれる事はありませんが、まなかの行動を読み手に分かりやすく解説する立場を務めます。

感想

きちんとカードゲームがプレイされている

そもそもこの作品は秋★枝さんがカードゲームにどハマりしている際に、編集者さんとの打合せ(兼飲み)の場で、カードゲームをやる女の子の漫画を描きたいと発言したことがきっかけで生まれたと作中のコラムで書かれていました。

そのため、ゲーム中の様子がとても丁寧に表現されています。まなかと瑛太の恋愛模様も確かに描かれていますが、主題はカードゲームがプレイされている様子を描くことにあります。

WSのルールについては、秋★枝さんの友人の方が元々考えていたアイデアを借りたとのことでした。つまり、何となくプレイヤーがカードゲームっぽい動きをしているのではなくて、きちんとルールが設定されているんです。ゲーマー的にはそこがとても良かったです。

WSのルールは?

TCGについて分からない人でも雰囲気が楽しめるように、という意図でWSのルールについて作中では詳細に説明されていません。

そのため、こちらの項では作中から読み取れる内容からルール内容を簡単に整理してみました。本作を読む上で、WSのゲームルールがいまいち分からないという方がいましたら、参考になれば幸いです。

Wizard's Soul ルール概要

  • 2人対戦ゲーム。各プレイヤーは互いに自身で構築したデッキ(カードの束)およびライフ10000点をもって戦う。
  • ターンは各プレイヤーに順番に回ってくる。ターン開始時に自身のデッキより1枚カードを引き、自身のターンを開始する。

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  • 各プレイヤーは手札を用いてクリーチャー(プレイヤーの変わりに戦う下僕や使い魔的な存在)を召喚したり、魔法を使ったりする。
  • 召喚したクリーチャーによる攻撃や、魔法による攻撃などによって相手のライフを0にしたら勝ち。
  • クリーチャーの召喚や魔法の使用には原則マテリアルというコストを使う。マテリアルは、それを生み出すカードを場に出しセットする事で供給される。通常、ゲームが進むにつれて使えるマテリアルの量は増えていく。

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  • その他の主要コストにソウルクリスタルがある。自身の召喚したクリーチャーが倒された場合にソウルクリスタルを1つ得る。ソウルクリスタルをコストとする能力はどれも強力である。

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  • 魔法カードは通常自身のターンで利用するが、自身のターンであらかじめ場に伏せておく事で、相手のターンにカウンターとして発動できる(ものもある)。
  • 各クリーチャーおよび魔法には特殊な能力が付随しており、その能力は上記の原則に優先して適用される。
  • 大会などの公式ルールの場合、3本勝負(2本先取で勝利)となる。各試合の合間には規定枚数の範囲内でデッキの組み替えを行ってよい。なお、デッキのカード群と、組み替えに用いる規定枚数内のカード群(「サイドボード」と呼称する)は大会事務局側に事前の届け出を行う事が必要。

ルールについては概ねこんなところです。「マジック:ザ・ギャザリング」または「遊戯王」などの一般的なTCGを知っている方なら、イメージしやすい内容だと思います。

対戦相手がバラエティーに富んでいる

上記のルールがある中、まなかはWSの大会で様々なタイプの対戦相手に遭遇します。

太田ひとみ

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強いクリーチャーを召喚してがんがん殴るタイプのプレイヤー。豪快な戦術の持ち主というイメージを抱かれがちだが、実際のプレイングは繊細。

王子憲一

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汎用性のある能力を持ち、どんな相手にも対応する「女神デッキ」を用いて、安定した強さを誇るプレイヤー。WSが強く顔もフツメンのため、女性からはモテモテ。

浅原あき(ロマンさん)

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遊戯王でいうエグゾディアデッキのような、特殊条件での勝利を好んで狙うプレイヤー。そのロマンを求める姿勢から周りのプレイヤーからは「ロマンさん」と呼ばれる。

小森ケイ

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「可愛いけど勝てるデッキ」を組んで戦うプレイヤー。フィールド魔法「森」が戦術の根幹になる事から、"森ガール"と呼ばれる場面も。

他にも多くのプレイヤーが登場しますが、皆WSに対して並々ならぬ思い入れを持っています。そして、それぞれの思いが込められたデッキをもって、様々な戦術を用いて、まなかの前に立ち塞がります。

彼ら・彼女らに対してまなかがどう戦って勝つのか、又は負けるのかは読んでいて大変面白いです。

描かれる「ゲーマーあるある」

秋★枝さん自身がカードゲームにハマっているだけあって、描かれるゲーマーの姿についてもリアリティを感じます。

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たとえば、デッキを考える中で最強!と思うカードを入れたが、翌日冷静になると全然使えないと気付くという話が……。

これはよく分かります。カードゲームに限らず、最善手を考えていたつもりが考えが詰まり過ぎて明後日の発想に辿り着くというのは、ゲーム好きにはしばしばあるのではないでしょうか。

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新しく刷られたカードについて、匂いや色味から印刷された国を当てる人も。これは私は実際には見た事ないですが、国際競技となっているくらいメジャーな文化となっている世界においては、凄くいそうな気がしました。

実際にも、印刷された場所とかまでカード実物から見破れる人っているのでしょうか?  だとしたら凄すぎですが……。

恋愛の描写もゲームとの絡みで表現される

上の項では、この作品ではカードゲームのプレイされる描写に力が注ぎ込まれており、恋愛模様の描かれる割合は少なめと書きました。しかし、そこは秋★枝さんなので、恋愛の要素についても描かれてはいます。

ただ、描かれている恋愛要素についても、ゲームに関する理解や価値観が無いと気付きにくい面があるかもしれません。以下、その内のいくつかをご紹介します。

愛情が感じられるシーン・その1

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まずは、まなかの対戦を瑛太がモニターで見守る場面から。

まなかが戦う予定の相手のデッキ(持ち込むカードの構成)を下調べしている瑛太。プレイ中の口出しはできませんし、またプレイ前だとしてもアドバイスできるシーンは限られてくると思いますが、それでも相手がどんなデッキの使い手なのか、気になってしまう様子が分かります。

愛情が感じられるシーン・その2

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まなかが対戦前のシャッフルでカードをぶちまけてしまう場面から。

大会当日、朝のめざ◯しテレビ的な番組の占いで、運気を高める行為として「普段と逆の手でシャッフルする」という物が挙げられていたために、弱気になっていたまなかは試してみたのですが、その結果カードを手から零してしまいました。

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こっそり試合を見ていた瑛太はその場でカードを拾うのを手伝いに入り、

何、占いなんか信じてんだ

と声をかけます。つまり、大会当日のまなかの占いまでチェックしているという事ですね。そこまで気が回るのは凄い。

愛情が感じられるシーン・その3

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最後は大会前の一コマから。

風邪でバイトを休んでいたまなかに対し、バイト先の店長はお見舞い(もちろんカード)を届けようと、お店を訪れた瑛太に託します。まなかの妹を介してお見舞いの品を届ける瑛太ですが、その中にまなかのデッキにとって有用と思えるレアカードを1枚こっそり入れていたのでした。これはゲーマーなら惚れてしまう……!

こうして見ると、瑛太の献身っぷりはすごいです。まなかがヒロインというより、むしろ瑛太がヒロインといってもいいかもしれませんね。

 

さて、これら瑛太のまなかに対する愛情を描いた場面についてですが、いずれもゲームに対する理解や思い入れが無いと、実感としてその愛情の強さが伝わりづらいのではないかと思いました。私はゲーマーなのでがんがんに伝わってきましたが、いまいちその良さが分からない方もいるかもしれません。

ゲームに興味が無いと読み込むのはシンドイ

ここまではゲーマーなら凄く楽しく読める! という感想を書いてきたつもりですが、それではゲームにあまり興味が無い人が読んだらどうなのか?

この記事を書くにあたり、本作について書かれた感想をいくつか漁って読んでみました。すると、やはりゲームおよびTCG好きの人からはこぞって高評価なのに対し、いつもの秋★枝さん節=恋愛物を期待して読んだが、ゲーム内容の理解が追いつかずに脱落したという人も見受けられました。

これは私の感想になりますが、TCGに対する元々の理解までは必要ないと思いますが、少なくともゲームと呼ばれる物に対して興味が持てない人だと読むのはシンドイ漫画だと思います。

まとめ

本作は秋★枝さんの趣味が全開に発揮されたゲーム&恋愛漫画です。ゲームのルール設定がしっかりしており、そのプレイングの様子がきちんと表現されているため、ゲームが好きな人、とりわけトレーディングカードゲームで遊んだ事がある人ならその多くが楽しめると思います。

一方で、秋★枝さんの漫画全般にある恋愛要素についても、ゲームという文化との絡みが出てきます。深い部分までゲームの中身を理解せずともノリと雰囲気で楽しめるように描かれている部分もあるものの、人によってはゲーム内容について理解できない事が、読み進める上での障壁になるかもしれないと感じました。

以上、『Wizard's Soul 〜恋の聖戦〜』の感想でした。


§ 本記事で掲載している画像は(C)秋★枝『Wizard's Soul ~恋の聖戦〜』より引用しています。


Wizard's Soul 1 ~恋の聖戦(ジハード)~ (MFコミックス フラッパーシリーズ)

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