あるこじのよしなしごと

妻・息子2人(2014生:小麦アレ持ち/2019生)と四人で暮らしています。ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、育児、その他日常等について綴っています。

漫画『五等分の花嫁』はミステリーなのか?

ざっくり言うと

漫画『五等分の花嫁』はミステリーと呼べるのかについての私見。結局のところミステリーの定義は人によって変わるので、そこに明確な答は無いが、個人的にはミステリーと呼んで差し支えない作品と考える

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

漫画『五等分の花嫁』はミステリーと呼べるのか? というテーマに関する記事です。本編が未読の方でも問題なく読めるよう、極力、本編のネタバレは抑えました。

なお、下記は各種の感想・考察の記事一覧へのリンクとなります。よろしければ、ご覧下さい(こちらのリンク先の記事はネタバレを大いに含みますのでご注意下さい)。

◾️感想・考察記事 一覧

本記事を書いた経緯

Twitterにて、『五等分の花嫁』はミステリーなのか、そうではないのか? という趣旨のやり取りを見たことに端を発します。

私自身は過去の下記記事の中で、本作について「ミステリーラブコメとの異名もある」との書き方をしました。

しかし、言われてみれば、この作品は果たして本当にミステリーと呼べるのかを改めて考えてみた事は無かったと気付かされたのです。

この機会に、この作品がミステリーと呼べるのかどうかについて、自分なりに整理してみたくなったというのが本記事を書いた経緯となります。

ミステリーの定義とは?

ところで、そもそも「ミステリー」って具体的にどんな作品を指すものなのでしょうか?

まずは、そこから考えてみました。

殺人事件が起きる話?

世界最古のミステリーとして一般的に挙げられるのは、エドガー・アラン・ポー作の『モルグ街の殺人』です(ちなみに江戸川乱歩のペンネームが同作者の名前に由来するのは有名な話です)。

モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集? ミステリ編 (新潮文庫)

モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集? ミステリ編 (新潮文庫)

 

実際にはこれよりも前に書かれたミステリーと言える作品もあるとか無いとか、そんな議論もあるのですが、ここはとりあえず一般的な説(と私が思っている)にならって、本作を挙げました。

内容は、探偵のオーギュスト・デュパンがモルグ街のアパートメントに住む母娘が惨殺された事件について調査し、二人を殺したのが何者であるのかを推理によって導き出すというものです。

余談ですが、昨今流行りのドラマ『あなたの番です』では、主人公であるミステリマニアの夫婦、手塚翔太と菜奈が推理を行う際に「オランウータンタイム」という符丁を口にしますが、これも実は本作が元ネタだったりします(理由の詳細はネタバレになるので割愛します。気になる方は独自にググってみて下さい)。

現代において確立されたミステリーというジャンルの先駆け的存在ですが……それではミステリーにおいて、殺人は必ず起きるものでしょうか?

犯罪が起きる話?

別に、誰かが殺人を犯す事に主眼を置いていない物語でも、ミステリーと呼ばれる作品はありますよね。

殺人を主眼としないミステリーと呼ばれる一例が、社会派ミステリーと呼ばれるジャンルです。

このジャンルでの第一線といえば、松本清張や森村誠一、また宮部みゆき辺りでしょうか。

名作と名高い宮部みゆきさんの社会派ミステリー作品が『火車』ですね。この作品ではカード破産をテーマに物語が展開されており、物語自体の魅力もさる事ながら、カード破産といった社会問題についての問題提起といった意味合いも込められています。

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

 

 

殺人が主眼に置かれないとしても、『火車』はある種の犯罪的要素が絡むストーリーです。ならば、こうした犯罪の登場がミステリーには必須なのでしょうか?

謎が論理的に解かれる話?

いやいや、犯罪が描かれないミステリーだってあります!

犯罪が描かれない推理小説の一ジャンルに「日常の謎」というものがあります。

これは、犯罪でなくても日常にだって推理するに値する謎はあり、それに対して論理的な説明を付ける事を楽しむというスタンスのお話です。

この作風の代表的な作家としては北村薫や若竹七海、加納朋子などが挙げられます。

たとえば、若竹七海さんが体験した事を題材にして描かれた、魅力的な日常の謎のミステリー作品が『五十円玉二十枚の謎』です。

競作五十円玉二十枚の謎 (創元推理文庫)

競作五十円玉二十枚の謎 (創元推理文庫)

  • 作者: 若竹七海,依井貴裕,有栖川有栖,笠原卓,法月綸太郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2000/11/17
  • メディア: 文庫
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同作品のwikipediaにおける紹介文を以下引用します。

推理作家の若竹七海が大学生のときに体験した奇妙な出来事を巡る謎。その奇妙な出来事とは、若竹七海がアルバイトをしていた池袋の書店で、毎週土曜日になると50円玉20枚を握りしめた男が現われて、千円札への両替だけ済ませるといそいそと帰っていったというものである。

五十円玉二十枚の謎 - Wikipedia

この何とも不思議な謎について、作家・一般人の多くが様々な解釈を展開しました。

なお、僭越ながら私自身も漫画『五等分の花嫁』をテーマに短編推理小説を2編創作したのですが、これらも「日常の謎」テーマの作品となっています。

 

「日常の謎」以外では、イギリスの作家であるジョセフィン・テイが書いた『時の娘』なども事件性のないミステリーです。

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

 

この作品は、作中の登場人物が歴史上「稀代の悪王」として知られるイギリスのリチャード3世について、実在する文献を読み解く事で、その"疑い"を晴らしていくというもので、ジャンルとしては歴史ミステリーなどと呼ばれます。

ちなみに日本の作品でも歴史ミステリーはあります。『時の娘』は日本人にはあまり馴染みの無い人物が対象なので惹かれない方も多いかもしれませんが、鯨統一郎の『邪馬台国はどこですか?』はむしろ日本人こそ楽しめる歴史ミステリーとなっています。歴史ネタを取り扱いつつもそのやり取りはユーモラスなので、気軽に読めて楽しいですよ。

邪馬台国はどこですか?

邪馬台国はどこですか?

 

「邪馬台国はどこですか?」「聖徳太子はだれですか?」「維新が起きたのはなぜですか?」などの全6作品から成る短編集です。ちなみに表題作でもある邪馬台国の場所についてですが、この作品の中では畿内説・九州説のどちらでもない場所を挙げています。

 

さて、日常の謎や歴史ミステリーといった、事件性のないミステリーもある事を説明しました。では、事件性がなかろうと、そこに謎が存在して解かれることがミステリーの条件なのでしょうか?

超常現象などのオカルトを扱う話?

ところが一切、謎が解かれないミステリーだってあります。

それが超常現象など、ある種のオカルティックな出版物についても「ミステリー」という表現が用いられる事があるんですよね。

ここまで来ると、何でもかんでもミステリーだな! という気分になってきますね(笑)

結局ミステリーって何なの?

ここからは私の意見となりますが、一言で言うと「謎めいた要素がある話」は全てミステリーとして呼ばれうるというのが私の中での結論です。

必ずしも殺人や犯罪といった要素は必要でなく、更に言えばその謎が解かれる事すら不要なケースもあります。そこには何かしらの謎が存在しており、それをテーマに楽しむ事ができればよく、故に人為的なものだけでなく超常現象や怪奇現象などまでもが対象に含まれるのですね。

そのため、一言で「ミステリー」と言っても、相手がその言葉をどういうジャンルのつもりで使っているのか、見極める必要があると思います。

「推理もの」としてのミステリー

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ともあれ上の話では、ちょっと内容が発散し過ぎるため、ここからは少し絞り込んでいきます。

漫画『五等分の花嫁』を評して用いられる「ミステリー」という言葉が怪奇現象としてのミステリーを指してはいないのは自明でしょう。

とすると、少なくともここでの「ミステリー」とは「推理もの」としての体をなしているかどうかがポイントであると考えられます。

では、推理ものとしてのミステリーの条件は何か? ここを少し掘り下げてみます。

「推理もの」足り得る条件について

「ミステリー」に関するwikipediaの項では、以下の3要素が推理ものとしての条件であると、早稲田大学のワセダミステリクラブの創設者である仁賀克雄が述べたと書かれています。

  1. 発端の不可思議性
  2. 中途のサスペンス
  3. 結末の意外性

ミステリ - Wikipedia

私もほぼ同意見なのですが、これをもう少し分かりやすい言葉に噛み砕きつつ、若干自分なりの解釈を加えると、以下になると考えます。

  1. 魅力的な謎が提示されること
  2. 伏線や手掛かりを元に論理的に解がもたらされること
  3. 途中の展開やラストに意外性があること

 

上の3条件を総合的に考えることでその作品が「推理もの」としてのミステリー足り得るかの判断が可能であり、中でも3条件の全てを完全に満たすものは良質な推理小説であるというのが私個人の考えです。

『五等分の花嫁』はミステリーか

では、この3条件を踏まえて漫画『五等分の花嫁』についてみたとき、どう整理を付けられるのかを考えてみました。

1. 魅力的な謎が提示されること

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この要素は文句なし、◎でしょう。

作品の冒頭で明らかになる、本作の主人公・上杉風太郎とヒロインである中野五姉妹のいずれかが結婚するという事実。花嫁となる人物は五人の中の誰なのかという大きな謎がいきなり提示されます。

そして、この大きな謎を根幹としつつ、

  • 作品中盤で登場する謎の少女の正体は誰なのか?
  • 時折挟まれる未来の結婚式の描写において生じている「普通ではない事態」は何故起きているのか?
  • 五姉妹の一人が時にみせる謎めいた行動の動機は何か?
  • あるアイテムに秘められたメッセージ。その内容は何か?
  • 場面によってその容姿の類似性から頻繁に入れ替わる五姉妹たち。彼女は本当に「彼女」なのか?

 

といった、とても多くの謎が作中で展開され、また明かされていきます。

これらの謎の分量やバリエーション、また明かされるものと明かされないものの割合という点で、本作はとても良く出来ていると私は感じています。

2. 伏線や手掛かりを元に論理的に解がもたらされること

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この点は△だと思いました。

作中では各種の謎についてアプローチするための様々な伏線や手掛かりが提示されます。そこからは、読み手を飽きさせずに、考えさせようとする姿勢が読み取れます。

しかし、謎の答が明らかになる際には、そうした事実の積み重ねから論理的に解明されるというよりは、いきなり答が提示されて、実際はこうだったのだと説明されるケースが多いと感じます。

例えるなら、数学の証明の問題で、証明の部分が省略されて、問と答が提示されるようなものですね。この点は明かされる謎の種類にもよるものの、何らかの真相が明らかになる際にはそこについての説明の段をもう少し踏んで欲しいという欲が私にはあります。

また、問と答が提示された際に説明が割愛された結果、多くの謎の解は提示されている事実から納得できるものの、一部の謎の解については部分的に納得がいかなかったり、どうしてこの人物がこういう行動を取ったのかに合点がいかなかったりする点もあるように思います。そこの説明が端折られているため、読み手としては自分で上手く理屈をつけて解釈しなければならず、そしてそれが正しいかどうかは確信できない箇所がたまに見受けられます。

なお、一部の解については作中の人物によって、その理屈が説明されるものもあるので、上の話が全部の解に当てはまるわけではありません。そしてここがまた、本作をミステリー的と感じさせるポイントでもあります。

これらの要素全体からみた結果、私の中では△という評価になりました。

ただ、この点について、本作は週刊連載中の漫画作品であり、全体を書き上げた上で推敲を経て発刊されるような作品とは、その整合性を保つ労力や難易度が桁違いである点は考慮すべきかなと私は思います。

3. 途中の展開やラストに意外性があること

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?(◯)

結末が明らかでないので?としましたが、途中までの展開から、補足で◯を付けました。

非常に似通った容姿の五姉妹がヒロインである事によってもたらされる展開の緩急は非常にトリッキーです。

いつのまにか五姉妹が入れ替わって登場したり、また入れ替わっていることは明らかなのだが誰が誰だか分からなかったりというのは大変面白いです。

作中では、この五姉妹の成り代わりの要素を上手く活用して、トリックやドラマ性が随所に生み出されていると思います。

ラストシーンが意外性のあるものになるかはまだ何ともいえませんが、これまでに描かれてきた展開の妙から、ラストでも何らかの仕掛けが打たれるのではないかという期待感を持っているのが実際のところです。

 

上記の3要素から総合的に評価すると、私の中では『五等分の花嫁』は「推理もの」としてのミステリーと呼んで差し支えない作品という結果になりました。

そして、もしラストの展開に意外性があり、またそこに至る伏線などについて丁寧に言及されるようであれば、更に素晴らしい作品として昇華するポテンシャルを秘めているとも思わされました。

まとめ

自身の中で整理した結果においては、『五等分の花嫁』はミステリー足り得るという結論に落ち着きました。

上で挙げた「推理もの」としてのミステリーの条件や、またそれらの条件を満たすかどうかにおける評価は完全に私の主観によるものなので、そこから導かれた結論については納得いかないという方もいると思います。

ただ、それも当然のことと思います。それくらい、どの作品がミステリーであるか(ないか)という境界線はあやふやで人によって違うものなのですから……。

たとえば、私の中では『ハリー・ポッター』シリーズもミステリーだし、石黒正数さんの漫画『それでも町は廻っている』だってミステリーなのです。

それでも町は廻っている(1) (ヤングキングコミックス)

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個人的には、そうした「ミステリー観の違い」についての考えを突き合わせ「これはミステリーだ!」「いや違う!」などと論を交わすのが、また楽しいという思いもあったりします。

 

以上、漫画『五等分の花嫁』はミステリーと呼べるのか? に関する記事でした。


§ 本記事で掲載している画像は(C)春場ねぎ・講談社/『五等分の花嫁』より引用しています。

五等分の花嫁(1) (週刊少年マガジンコミックス)

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五等分の花嫁(11) (講談社コミックス)

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