漫画『恋は光』の感想。恋をする女性が光って見える男・西条が主人公の恋愛漫画。理屈っぽい登場人物の面々が「恋とは何か」を巡って奔走する物語。光の正体に関するミステリー要素や緩い大学生活の描かれ方も作品の魅力。
こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
2017年末、『恋は光』という漫画が完結しました。非常に面白い作品だったので、その魅力について書いてみたいと思います。
なお、作品を紹介する都合上、一定の情報は提示していますが、作品の魅力を削ぐことの無いように、できる限り不要なネタバレをしないように配慮したつもりです。
基本情報
作者は秋★枝さん。『煩悩寺』などのラブコメ作品が有名な漫画家さんです。ちなみに私はボードゲームが好きなのですが、トレーディングカードゲームがテーマの『Wizard's Soul 〜恋の聖戦〜』という作品も描かれています。
主人公の男子学生・西条と、彼を取り巻く3人の女性の恋愛模様がテーマの作品です。上述の通り、物語は既に完結しています。単行本は全7巻で、kindleでも配信されています。
主要な登場人物
主人公:西条
恋をする女性が光って見えるという特性の持ち主。しかし、自分に向けて光った女性は皆無。それ故、恋というものは自分とは無縁のものと割り切ってこれまで生きてきた。
ヒロインその1:東雲
浮世離れした不思議ちゃん文学少女。恋を知らず、それ故に恋を知るために文学作品からアプローチする。彼女が発したこの一言に西条は惹かれ、そこから物語は動き出す。
ヒロインその2:北代。
西条とは小学校時代からの付き合いで、彼の事をある経緯から「センセ」と呼ぶ。実は昔から西条を一途に想っているのだが、どういう訳か西条は北代の想いを光として感知できない。
ヒロインその3:宿木
東雲・北代と同学年であり、西条に対して初めてピカピカと光った女性。何故光ったのか?は読んでのお楽しみ。ヒロイン3人の中では一番俗っぽく、様々な策謀を巡らす。この人だけ名字に方角が入ってないと思いきや、名前が南なのでノープロブレム。
物語はこの4人が中心となり展開されます。ヒロインが三者三様のため、見ていて面白い。そして、読んでいくうちに誰かに肩入れしたくなります。
なお、私の一押しは宿木さんです。その悪癖(?)や、色々と策を巡らす点から合わない人は徹底的に合わないと思いますが、西条・東雲・北代と接する内に、彼女の中でも恋とは何か? に対する自身の考えが整理されていきます。作中で描写される彼女の心情の揺れ方は、個人的には一番共感できます。
作品の魅力
登場キャラクターが皆、割と物事を冷静に考えている
果たしてこれが恋愛漫画における魅力足りうるのか? と思われるかもしれませんが、まずはこの点です。
作中で各キャラクターはそれぞれ、以下のような点に思いを巡らせます。
- どうやったら相手のことを振り向かせる事ができるのか?
- ここで相手を振ったとしたら、今後の関係はどうなるのか?
- 友人同士が恋人関係になったとしたら、今の友人関係は崩れてしまうのではないか?
何のことはない、ごく当たり前のことを、当たり前の思考として登場人物が考えているだけです。そして、その点こそが、等身大の人間として描かれていて良いと思うのです。
別段、目新しくないと思われるかもしれませんが、丁寧に登場人物の心情を説明してくれた上で、各キャラクターが良い意味で現実離れした変な暴走をしない恋愛漫画というと、意外と少ないように思います。
キャラクターはいずれも理屈っぽいが、中でも理屈っぽいのが西条です。それ故に周囲からちょっと浮くのも、さもありなん。ただ、その基本姿勢は他者や物事に対する感心や賞賛という形を取っているので、思考を聞いていて面白く、不快になりません。
西条に負けず劣らず理屈っぽいのが東雲。こちらは紹介でも書いた通り、恋とは何か?を純粋に希求しています。彼女の考える「恋とは何か」「浮気とは何か」などの問いかけは、そうした概念について何となくで定義していた読み手の再認識を促してくれます。
光の正体を探るミステリー要素
光について西条は、直感や過去に自身で調べた経験から、「恋をする者が光っている」と考えています。
しかし、本当にそれが光の正体なのかは実は誰にも分からないのです。特に読み手からすると、それなら何故、北代は光らないのか?という疑問が残ります。
たとえば「光」の正体を改めて検証する過程で、北代は実は警告なのでは?と一つの仮説を立てます。西条が光の事でかつてクラスの女子から軽く迫害されたという話を聞いて、西条に仇なすものが光るのではという説を立てるのですね。彼女からすれば自身が光らない以上、恋する故に光っているという結論に承服しかねる訳ですが……果たして、光の正体は一体何なのか?
作中に溢れる大学生活感
話の本筋から逸れますが、この作品全体に漂う緩い大学生活の感じも魅力の一つだと思います。
履修選択、バイト、講義ノートのコピーをもらう、試験をどう乗り切るか、安い飲み放題の居酒屋、部屋呑みのためにスーパーで買い出し……などなど。大学時代、親元を離れて一人暮らしして過ごした人間からすると、この漫画に流れる雰囲気は当時のそれを思い出させてくれて、何とも心地よいのです。
単位がぎりぎりだ。部屋のみなら安く済む。今日は昼飯をどこで食べようか。儲かるアルバイトの口はないか。こんなやりとりに、何とも言えない郷愁を覚えてしまいます。これは自分が歳を重ねたからなのだろうか……。
そして4人の恋の行方は
西条・東雲・北代・宿木の4人の物語は初夏に始まり、夏を過ぎ、秋を経て、冬に一つの結論を迎えます。もどかしくも丁寧に進んでいた物語は、突如起こったある重大な出来事によって一気に加速し、終焉へと向かう事になります。
西条は誰と結ばれるのか。いや、そもそも、西条は誰かと結ばれるのか。光の正体は何なのか。そして、恋とは一体何なのか。全ての答が示されるときが、やがて訪れます。
まとめ
以上、『恋は光』の魅力と自分が考えるところについて、つらつらと書いてみました。
敢えて上で書いてきたことの裏返しで表現してみると「頭でっかちな人々が、優等生的な思考で、のんびりと恋愛していくお話」とも言えます。そうした話は肌に合わない、恋愛物は劇的でなければ!と考える方には、この作品は合わないかもしれません。
しかし、どこかゆったりとした雰囲気の中で、自分の恋愛観を見つめ直す一つの機会ともなるこの作品は、男女問わず、広く読まれるといいなあと純粋に思う次第です。
最後に一点、お節介ながら書かせて頂くと、読む前にAmazonのレビューに細かく目を通さない事をお勧めします。
理由は、レビュー内で直接・間接の差はあれ、ネタバレが散見されるからです。読んだ後についつい自分の思いを書きたくなる、そういう魅力をもった作品ですのでネタバレしたくなる人たちの気持ちは大いに分かるのですが、始めて読む前に目にしてしまうと先の展開が分かってしまい、大変勿体ないです。
Amazonのレビューを気にされるようであれば、星が幾つ付いているかだけに着目し、個々のレビューは読了後に読む事をお勧めします。
読了後にレビューを読むと、自分が共感できたり、逆にそうは思わなかったりなど、様々な意見を読むことができて面白いです。特に最終巻は多くの感想が投稿されており、読み応えがあります。Amazonレビューを読むのは読了後のお楽しみに取っておきましょう!