あるこじのよしなしごと

東京の片隅で、妻と4歳の息子と三人で暮らしています。 ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、遊んだゲーム、育児について、その他日常などを綴っています。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第28話「決断ステッキ」感想

ざっくり言うと

優柔不断なお客様が登場する。人間、生きられる人生は一つしかない。シリーズ内で初めてお客様が死亡する(と思われる)話。

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第28話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。

第28話「決断ステッキ」

お客様について

サラリーマンの真夜井王志です。名前の由来は「優柔不断で迷うことが多い」ことから。

真夜井の悩みは、日々の選択の際になかなか決断できないことでした。朝、どのネクタイを締めるか。夜、同僚の誘いを受けるか断るか。あらゆる場面で真夜井は悩んでいました。

喪黒さんと出会った場は中華料理店の中なのですが、この時もなかなか食べる物を決められず、最後は周囲のプレッシャーに追い詰められ、焦って適当な物(ラーメンライス)を選んでしまっています。

笑ゥせぇるすまんのお客様は、実はA先生御自身がモデルであると、『帰ッテキタせぇるすまん』のあとがきの中で書かれていました。この真夜井というキャラクターの抱える悩みは、いかにもA先生っぽいなと何処となく感じさせられます。

真夜井はその後も、迷った末に同僚の麻雀の誘いに乗った結果、大負けしてしまうなど、自身の選択が良くない結果をもたらすことになります。

話は少し逸れますが、これだけ色々迷う体質の真夜井を同僚が麻雀に誘うのはどうなんだ?と思いました。麻雀は遊戯中に何度となく選択を迫られるゲームです。かつ、その選択は速やかに行われる必要があります。

図らずも、笑ゥせぇるすまんの第2話において「麻雀はリズムですよ」という台詞が出てきます。

麻雀はテンポが大事。これはよく言われる事ですね。勝負所での長考はもちろんありですが、基本的にはさくさくと手番を消化する姿勢が求められます。

しかし、遊戯中に真夜井が早い打牌ができるとはとても思えません。にも関わらず誘われるという事は、同僚から意外と愛されているのでしょうか? あるいは、迷いによって中途半端な手を打つが故に良いカモとして扱われているのかもしれませんが……。

生きられるのは一つの人生だけ

真夜井は喪黒さんとBAR魔の巣で、自身の優柔不断さについて愚痴をこぼします。それに対して喪黒さんは諭すように、人生を二つ生きることはできないのだと語ります。

ここの喪黒さんの台詞は深いですね。真夜井にこの上なく的確なアドバイスをしていると思います。

人生の選択について語られている漫画として私の印象に強く残っているのが『東京トイボックス』です。要潤さん主演でドラマ化もされています。

同作品の主人公である天川太陽はゲームプランナー、つまりビデオゲームを作る人ですね。元々は「ソリダス」という最大手ゲームメーカーで働いていましたが、組織のしがらみを厭い、自身で「スタジオG3」という会社を立ち上げます。しかし、会社の規模が小さくなる事で、天川が出来る仕事の幅は狭まりました。その様はかつての同僚から「自由を求めて不自由になっただけだ」と揶揄されます。

その天川が作中(同シリーズの続編『大東京トイボックス』9巻)においてモノローグするのが次の言葉です。

別の道を選んで、もっと良い人生を歩んでいるifの自分……そいつに対する嫉妬心を人は「後悔」と呼ぶ。

この言葉に対して、すごく腑に落ちたのをよく覚えています。

人間、不思議な事に、ある選択をして上手くいかなかった場合に、もう一つの選択を取っていれば成功していた筈だと夢想しがちです。それが天川が言うところの"もっと良い人生を歩んでいるifの自分"です。

でも、本当に違う選択を取っていたら上手くいったのかは誰にも分からない。ひょっとしたら、もっと悪い事態になっていたのかもしれないんですよね。だからこそ、選択で不必要に悩み過ぎる(少なくともストレスになる程に悩む)事は、あまり意味が無いのだという訳ですね。

しかし、そうした理屈が分かったとしても、割り切れないのもまた人間です。真夜井は喪黒さんのアドバイスを聞いても、やはり自分にとって決断する事は難しいと主張します。

そんな真夜井に喪黒さんは決断ステッキというアイテムを渡します。迷った際にこのステッキの選択に従えば間違いないという能力です。

このステッキ、作中で登場する喪黒さんグッズの中でもかなり良いです。汎用性が高く、依存性も低い。使うタイミングも自由です。使いたくなければ使わなくてもよい。そして何より、作中で出てきた描写に限られますが、決断ステッキの選択に従うと、悪い事が起こらないのではなく、良い事が必ず起きるのです。これはかなりのチートアイテムですね。

決断ステッキを使う真夜井は、お昼ご飯のお店・メニューも迷いませんし、同僚との麻雀でも大勝ちします。

個人的に良いなあと思ったのはラーメン一年無料券を貰うシーン。めっちゃ太っ腹な賞ですよね。実際、こういうサービスをするラーメン屋さんってあるのでしょうか?

ちなみにネットで検索してみると、替え玉一年無料や、一年で52杯まで無料とかはありました。どちらも充分凄いと思いますが、単なるラッキーで「一年間いくら食べても無料」の券を配っている事例は見つかりませんでした。

お客様が初めて死亡する

順風満帆に見えた真夜井でしたが、やはり喪黒さんの忠告に背いてしまいます。男の同僚に誘われた麻雀に行くか、女子社員に誘われた飲み会に行くか。決断ステッキに判断を委ねる真夜井でしたが、ステッキの出した結果に逆らい、麻雀に行ってしまったのでした。

麻雀に行きたいなら、初めからステッキに聞く必要は無かったのですが、どんな選択も常にステッキ任せにしていたのが仇となりました。自分がどうしたいのかを考える前に、習慣でステッキに伺いを立ててしまったんでしょうね。

ただ、その一回のミスがどれほどのペナルティであるのかは真夜井どころか、読み手にも分かりません。一回くらい逆らっても問題ないだろうと真夜井が考えるのも仕方が無いかもしれません。

喪黒さんとの会話の後、真夜井は飲み会を断った女性社員らと出会います。今度は付き合うか付き合わないか……ステッキにその決断を任せた真夜井。

しかし、落下したステッキは真夜井の頭上に降ってきます。この後のコマで真夜井の頭に刺さるのですが、その描写から、おそらく真夜井は死亡するのではないかと思われます。

実は、笑ゥせぇるすまんの中でお客様本人が死亡する(と思われる)のは、この回が初めてです。

ちなみにお客様本人ではありませんが初めての死者が出る回は第12話「ゴルフ入門」です。この時はお客様が事故によって他者を死に至らしめる結果となりました。

真夜井は確かにミスを犯しましたが、まさかそれで死ぬとは思わなかったというのが初めて読んだ時の感想でした。改めて読んでみても、その結末は非情だと感じます。

お客様のやらかし度合いと、生じた被害に対して、適当に評点を付けて線形回帰分析をしたらどんな結果が出るのか、ちょっと興味が湧きました。おそらくは、全く相関が見られないという結果になるんだと思いますが……。

あとは何となくですが、喪黒さん本人ではなく、何らかのアイテムを介して事が起きると、被害が大きくなるのかなという気がしますね。喪黒さんであれば若干の手心は加えられますが、アイテムの場合、情が無いところが怖いです。

以上、『笑ゥせぇるすまん』第28話の感想でした。