漫画『笑ゥせぇるすまん』第14話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。
第14話「白昼夢」
お客様について
サラリーマンの中島建一です。名前のゴロは特に無いのか、分かりませんでした。同僚の坂巻曰く「マジメ人間」とのこと。確かに見た目もそんな感じです。
中島はある日、同僚の坂巻に連れられ、会社と同じビルにあるクラブ「白昼夢」を訪れます。その特徴は、昼間から営業しているということ。
ここで喪黒さん登場。本人以外の人間が既に喪黒さんと行き合っており、そこから紹介されるというのは非常に珍しいです。というか、少なくとも漫画版では、このエピソードだけかもしれません。
クラブ「白昼夢」
面白い場所が無いか……と一人飲みながら呟く坂巻に喪黒さんは接近し、「白昼夢」の存在を教えます。喪黒さんの説明は何とも魅力的です。特に
今ごろ世間の人はみんな一生懸命はたらいているんだなと思ってのんでると、奇妙な快感ーー反社会的な、背徳的な、とでもいうような快感を感じるのです
というくだりには、グッとくるものがありますね。
さて、この話はいわゆる施設紹介型のエピソードに分類されます。摩訶不思議な施設を喪黒さんがお客様に紹介し、そこにお客様がハマっていく、という形態の話です。施設紹介型の話は、この14話が初出となります。
坂巻に白昼夢の事を教えられた中島ですが、彼もまた白昼夢の魅力にハマります。もっとも、白昼夢というよりは、そこのホステスのケーコにハマったというのが正確な所かもしれません。
中島は就業後に再度「白昼夢」を訪れますが、そこにケーコの姿はありませんでした。同名の別人はいましたが……。どうやら昼と夜の営業は別シフトとなっているようですね。
ちなみにこういう昼間営業のクラブって実際にあるのかな? と興味が湧いたので調べてみました。現代には普通に存在する業務形態のようですね。「朝キャバ」「昼キャバ」などと呼ぶようです。「白昼夢」を実際に味わってみたい方は、探して行ってみては如何でしょうか。
忠告は無いけれど
この話には喪黒さんからお客様への忠告はありません。しかし、そんな忠告など無くとも、中島と坂巻はある事を守っていました。それは飲酒をしない事です。
というのも、二人とも仕事の昼休憩の時間に「白昼夢」を訪れているので、後の業務に差し支えないよう、飲むのはあくまでノンアルコールビールに留めていました。
そこに、喪黒さんの甘言です。何とも悪魔的な誘惑ですね(笑) しかし、幾ら何でも業務中に飲酒はしないだろう……と思っていたら、
やっちまいました。喪黒さんの誘いが魅力的だったというのもあるかもしれませんが、ケーコが水を向けたのが中島には強く影響したのでしょう。
その後は喪黒さんのドーン!によって、時間感覚も失われ、堕ちていくのみとなりました。合掌。
ラストシーンの喪黒さんの言葉はなかなか印象深いです。
だれでも夢をみる権利はあるのです。ただ……お金がないと夢からサメルのが、はやいだけなのです
アニメ版にみられるオチの変化
さて、本エピソードについては二回アニメ化されています。
一度目はテレビ番組「ギミア・ぶれいく」の一コーナーとして。そして二度目は、2017年に放映された『笑ゥせぇるすまんNEW』です。ちなみに「白昼夢」は『NEW』の記念すべき第1話に採用されています。
このお話については、漫画版とアニメ版で年代を追うごとにオチが微妙に修正されているのですが、この修正のされ方がなかなか面白いのです。以下、その変化点を挙げていきます。
漫画版のオチ
漫画版では白昼夢で豪遊し、酔っ払ってオフィスに戻る事で、中島は以下の被害(といっても身から出た錆ですが)を受けます。
- 98,000円を請求される(所持金5,000円)
- 17:03にオフィスに戻った事で上司に叱責される
ちなみにケーコは所持金が全然足りなかった中島について
五千円ぽっちでひるまからゼイタクな夢をみれると思ってたのかしら?
と発言します。厳しい! 一応、中島が退店してからの発言であるのはまだ救いです。
アニメ版のオチ
それでは、アニメ版ではオチがどうなっているか。
- 398,000円を請求される(所持金30,000円)
- 17:36にオフィスに戻った事で上司に叱責され、かつクビと言われる
まず、被害の度合いが増しています。所持金が増えているものの、請求額は文字通り桁が違いますし、何より重大なのはクビの宣告です。
そもそも、漫画版のペナルティである98,000円の会計というのが、痛い出費ではあるものの払える範囲なんですよね。少なくとも、人生が崩壊するような出費ではありません。そのため、アニメ化の際に被害の度合いが大きくされたのでしょう。
次に着目すべきはオフィスに戻った時間です。微妙ですが、17時過ぎから17時半過ぎに変化しています。
「中島たちが業務の定時時間帯を過ぎてからオフィスに戻った事で叱責された」という前提がもしあるとするならば、漫画連載時(1969-1971)は17時が定時のイメージだったのに対し、アニメ放映時(1989-1992)は17時半頃が定時というイメージに変化した、という事を示唆しているのかもしれないと思いました。
NEW版のオチ
さて、これが更に2017年のNEW版ではどうなったか。
- 498,000円を請求される(所持金10,000円)
- すっかり日が落ちた時間(背景が夜)にオフィスに戻った事で上司に叱責される
- 中島が既婚である
請求金額は10万上乗せです。旧アニメ時よりも景気が悪くなっているにも関わらず、金額が上がるのは面白いですね。請求額が増えているのに、所持金が30,000円から10,000円に減っているのが、また物悲しい……。
これは単純に被害の度合いを大きくしているという意味もあるのでしょうが、それに加えて、クビの宣告の描写がなくなったため、バランスを取るために金額を上げたのかと想像しました。
昨今では簡単に会社員を解雇できない事が周知の事実となっているため、リアリティが無いなどの批判を回避するため、旧アニメ版にあったクビの描写は無くしたのでしょう。
オフィスに戻った時間は確定できませんが、窓の外がすっかり暗くなっており、上司も「日が落ちている」と叱責の中で発言していることから、おそらくは19時台でしょうか。
何故、オフィスに戻った時間がより遅く設定されたのか? これは解釈が難しいですね。
単純に中島のやらかし具合を大きくしたという可能性もありますし、あるいは、「定時」というイメージの標準化が昔に比べて難しくなっているとスタッフが判断し、誰もが明らかに定時よりも遅いと分かるように夜に設定したという見方もあるかもしれません。
更に地味な変化点として、中島が既婚の設定になっているのも面白いです。既婚の男性が奥さんに内緒で498,000円を工面するのは厳しいでしょう。被害の拡大になっているといえます。
ただ、この点は被害の拡大のための設定変更ではないかもしれませんね。そもそも若い独身男性がクラブ等にあまり行かなくなったことが影響しているのかもしれません。
漫画版の中島は22歳なのですが、その歳でクラブに通うか?と現代の視点だと大分違和感があります。ここを既婚者にする事で、クラブ通いについての違和感が生じないようにしたのかなと推測しました。
以上、『笑ゥせぇるすまん』第14話の感想でした。