あるこじのよしなしごと

妻・息子2人(2014生:小麦アレ持ち/2019生)と四人で暮らしています。ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、育児、その他日常等について綴っています。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第32話「家族あわせ」感想

ざっくり言うと

お客様は冷え切った家庭に嫌気がさしているサラリーマン。喪黒さんによって家族の交換を持ち掛けられる。アニメ版は漫画版に比べてラストが分かりやすく改変されている。

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第32話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。

第32話「家族あわせ」

お客様について

中年サラリーマンの屋内寒志です。名前の由来は「家庭が冷え切っている」ことから。

屋内は強気な妻と受験勉強でピリピリしている息子との三人家族です。屋内は妻と息子からいつも軽く見られたり、馬鹿にされたりと家庭で休まる時がないようです。

31話に続いて、「家で肩身が狭い思いをしているお父さん」が主役(お客様)の回ですね……。

屋内と喪黒さんは、タクシーの中で行き合います。朝、妻との喧嘩から出発が遅れた屋内が、喪黒さんが乗っているタクシーを捕まえ、相乗りを頼んだのでした。改めて思うと、喪黒さんの乗っていたタクシーをわざわざ止めてしまうとは、屋内さんは自分から墓穴を掘りに行った感が凄いですね。

屋内さんの悩みを聞いた喪黒さんは

屋内さん、ひとつ思いきって、家族をかえてみてはいかがです?

今のあなたの家族はあなたに合っていないのです! だから、あなたに合った家族にかえるのです!

名案とばかりに喪黒さんは屋内に伝えますが、屋内は困惑しながら

女房も息子もわたしをバカにしてますが、とにかくわたしの家族ですから……

と喪黒さんの提案を断るのでした。

レンタル彼女ならぬレンタル家族

レンタル彼女については第30話で取り上げたところですが、今回は言わばレンタル家族に関するお話です。

レンタル家族という業態についての話は、以下の記事が事例も複数言及されており、よくまとまっていました。

上の記事を読んでみて、レンタル家族の場合、レンタル彼女かオーダーされる理由よりも重い物が多そうだな……と感じました。

私が上の記事を読む前にイメージしていたレンタル理由は、結婚式で存命の身内が少ないからとか、保育園の面接で両親の存在を示すためとか、そういうものばかりでした。実際、そういうオーダーもあるようでしたが、作中の屋内同様、実際の家族との不仲からレンタルしている方もいるようでした。また、シングルマザーの方が「普段は会えない父親」として娘に会わせたりするなんて話もありました。

どんな理由でレンタル家族を頼もうと自由なのでその動機は気になりませんが、レンタル家族役を務める人のプレッシャーは凄そうだなと感じました。私にはとても務まる気がしません……。特にシングルマザーの方のレンタル家族で父親を務める件は、何らかボロを出してしまった場合に取り返しがつかなさそうです。大変なお仕事だと思いました。

謎のレンタル妻と娘

さて、喪黒さんの誘いを一度は断った屋内ですが、BAR魔の巣から帰って早速自宅で妻と息子に馬鹿にされ、家出する羽目になります。その後、喪黒さんに連絡を取り、新しい家族の元へと向かうことに。

おっかなびっくりで新しい家族がいると言う邸宅に入る屋内さん。果たしてそこには、美しく優しい妻と娘が居たのでした。

一方、屋内さんを馬鹿にして追い出した本当の妻と息子は、屋内さんが帰って来ないことに苛立ちますが、やがてその苛立ちは、もう帰って来ないのではという不安へと変わり始めます。この点、屋内さんが心底嫌われていた訳ではないのだなと分かって、読んでいるときは多少溜飲が下がりました。

そんな屋内さんの妻と息子の許を訪れる喪黒さん。彼らを今の屋内さんがいる邸宅へと案内します。すると、そこには

ホーッホッホッ 好きなだけおやすみ……パパ……

と呟きながら屋内さんを抱きしめる一種異様な妻と娘、そして精気を吸い取られたのか不自然なほどに老化した屋内さんがいるのでした……。

屋内さんが引き合わされた妻と娘は、どんな素性かは明確になりませんが、何らか人外的な存在だったのだと思われます。

この話では喪黒さんによる屋内さんに対する忠告もなく、屋内さんに落ち度という落ち度は見当たりません。偽りの家族に救いを求めてしまったのが悪かったといえばそうですが、元はと言えば実の家族に冷たく突き放されたのが原因なのです。その結果、心身共に弱らされてしまう屋内さんはただただ哀れな存在に感じました。

アニメ版との違い

この話はアニメ版だと漫画版と明確に違いがあります。それは、謎の妻と娘の正体が明らかであるという点です。

アニメ版では漫画版に無かった描写として、屋内さんが街中で献血に協力するシーンが登場します。そこで献身的にボランティアに参加する少女と、採血を行う美しい看護師の女性が登場するのですが、それが後に屋内さんが出会う娘および妻なのです。

漫画版を読んでからアニメ版を観たので、何でこんなシーンがあるのかな……と思っていたのですが、その謎はラストシーンで解けました。漫画版では、よく分からないが恐らく精気を二人に吸われて弱ってしまったであろう屋内さんが登場しますが、アニメ版では二人に血液を吸われている屋内さんが描かれているのです。つまり、謎の妻と娘はヴァンパイアだったというオチが付くんですね。献血のシーンはその伏線という訳です。

この改変はなかなか面白かったです。漫画版のオチの方が妻と娘の正体が判然としないため不気味さが強く残りますが、その一方で「結局この妻と娘は何だったんだ?」という疑問も受け手には残ります。

アニメ版では妻と娘の正体があからさまであるため、正体がよく分からない事による不気味さという要素は失われるものの、視聴者にとってはオチが理解しやすいです。漫画版よりもアニメ版の方が内容を咀嚼することは困難ですから、理解しやすいオチへの改変はありだと思います。中でも、この話の改変のされ方はユニークに感じました。

以上、『笑ゥせぇるすまん』第32話の感想でした。

笑ゥせぇるすまん (2) (中公文庫―コミック版)

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