こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
漫画『笑ゥせぇるすまん』第20話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。
第20話「途中下車」
お客様について
サラリーマンの半出押作です。名前の由来は、日々帰りに寄り道もせず、「判で押したような」ルーチンを守って帰宅している事から。
半出は喪黒さんに、帰宅時の電車の中で遭遇します。そして、秘めていた、ある気持ちを指摘されます。それは、帰宅中に途中下車し、電車からいつも見かけている女性に会いに行きたいという気持ちでした。
半出はその気持ちを喪黒さんのドーン!によって、解放されます。そして、初めての途中下車をするのでした。
『笑ゥせぇるすまん』連載開始!
19話までは1969-1971年に雑誌「漫画サンデー」で連載されていた『黒ィせぇるすまん』の内容でした。ちなみに、中公文庫版1巻に収録されているのも、ここまでです。
この20話から(よって、中公文庫版2巻から)は、雑誌「中央公論」1990年7月号で連載を開始した『笑ゥせぇるすまん』の内容となります!
『黒ィせぇるすまん』として連載されていた19話と見比べると、絵のタッチが変わったことがはっきりと分かります。
また、喪黒さんのドーン!もアニメのイメージに近くなりました。『黒ィせぇるすまん』時代はドーン!が登場しない回もありましたが、いよいよ喪黒さんのトレードマークの一つとして定着し始めます。
それもそのはず(?)、この連載開始時点では既に「ギミア・ぶれいく」でのアニメが放映を開始しているんですよね。
1989年10月10日にアニメ放映は開始したそうです。つまり、時系列を簡単に整理すると
- 「漫画サンデー」にて『黒ィせぇるすまん』の連載開始・終了(1969-1971年)
- 「ギミア・ぶれいく」でのアニメ放映開始(1989年10月10日)
- 「中央公論」にて『笑ゥせぇるすまん』の連載開始(1990年7月号)→連載作品を順次アニメ化
となる訳ですね。
さて、中央公論での連載について、藤子A先生は、後日発刊された『帰ッテキタせぇるすまん』の後書きの中でこう書いています。
なんせオカタイ雑誌の代表である「中央公論」に漫画、それも喪黒福造が主人公の漫画がのったことも現代未聞のことだった。
こうした「中央公論」という雑誌の読者層の事を想定してか、この話では57歳と還暦近くの年齢のサラリーマンがお客様として設定されました。また、この話以降も『黒ィせぇるすまん』における連載時と比べると、お客様の年齢は高めで、かつその多くがサラリーマンとして設定される事になります。
ミスティを目指して
よく見かけていた女性がミスティというお店にいた事を覚えていた半出は、そのお店を探すのですが……。
誤って別のお店に入店してしまいます。お店の人にミスティの場所を確認して辞去しようとしたところ、上手く立ち去れずに一杯だけ飲む事に。
そして、案の定ぼったくられる。余計な寄り道が命取りになりました。下手に情けをかけている場合では無かったですね。
その後、ようやくミスティを探し当てた半出でしたが、彼女は既に店にはいませんでした。残念……。
更には帰る家まで消失してしまった、という内容でこの話は幕を閉じます。
泣きっ面に蜂
この話は上で挙げた通り、お客様の半出に次々に不幸が降りかかります。すなわち、
- ぼったくりバーでぼったくられる
- カスミに会う事ができない
- 家を失う
この3つです。喪黒さんに唆されてちょっと途中下車しただけで、このペナルティはかなり厳しいですね。
3は正直、蛇足というか、途中下車した事との因果関係が個人的にはよく分かりませんでした。理不尽な不幸といえば、まあそうなんですけどね……。
ちなみにこの話以降も、困ったら家消しとけ的に家が消えるオチで終わる話がちょいちょいあったりします。
1と2だけではオチとして弱い、というのは分かります。かといって、2はこれ以上被害の度合いを大きく出来ないでしょうし、1でぼったくられる金額を大きくしたら、それは14話「白昼夢」とネタが被るのでやりたくないでしょう。
「中央公論」を読むような熟年層にとっては持ち家を失う事のインパクトは大きいでしょうから、そこがオチとして設定されたのだろうと理解はできるのですが、話の流れとはそぐわないように、個人的には思います。
半出の夢であるところの「電車で見かけた人に興味を持つ」というテーマは普遍性があり、誰もが何かしらの形で共感を持てる気がします。それだけに、オチがぴたっと嵌らないのは余計に残念に感じました。
アニメ版での違い
アニメ版では1のぼったくられる場面で、何と喪黒さんが助けに入ってくれるんです! ドーンを武器に、ぼったくりバーの店員らを撃退してくれる、頼もし過ぎる喪黒さんの姿は一見の価値ありです。
しかし、喪黒さんがぼったくりから助けてくれるという脚本の変化は、何が理由だったのかなと少し不思議に思いました。途中の被害を回避する事で、ラストのオチのインパクトをより大きくするためでしょうか?
また、ラストシーンもアニメ版では多少変化しています。
漫画・アニメ共に自宅に帰る際はタクシーで帰ります。漫画版では降車時、特に問題なく支払いを終えます。それに対し、アニメ版では手持ちの金が無く家にあるお金で支払いを済ませるつもりで乗車したため、結果的に無賃乗車になり、警察に連れて行かれるという形で被害が拡大しています。悲惨としか言いようが無いですね……。
以上、『笑ゥせぇるすまん』第20話の感想でした。