謎と解決の難易度のバランスが良い。5巻という分量において、複雑・長期化しやすいループ物を見事に描き上げた秀作。
こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
漫画『はっぴぃヱンド』5巻の感想です。田舎に引っ越してきた主人公が、自身が殺されるループに囚われ、そこからの脱出を図るという作品です。
本記事は4巻までの内容と5巻の一部の内容についてネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい。
但し、本作品のラストについては秘匿性が重要と判断したため、本記事では5巻を未読の状態で読んでも大きな支障が無いよう、本作品の根幹部分と思われる内容について極力ネタバレをしないよう配慮しました。
本記事では、最終巻を読んだ自分がどう感じたかを書き綴っています。ネタバレ回避のため、内容がぼやっとした形になるかもしれませんが、ご了承下さい。
感想
結末に対する納得感があった
首謀者の正体、村で行われていた実験の内容。納得感のいく内容でした。
この手のループ作品は、最後の風呂敷をどう畳むかがとても難しいと思います。というのは、物語の構成を複雑にすることで読み応えがある内容にできる反面、複雑にし過ぎると、その説明が困難になります。かといって仕掛けをシンプルにし過ぎると、その分謎の奥深さが減ります。
本作はそうした観点からすると、謎の複雑さと分かりやすさのバランスが非常に良かったと感じました。よくこの内容を5巻で綺麗にまとめたなと思います。
情報の出し方・散らし方が上手かった
全編を通じて、謎や情報の出し方が上手かったと感じました。
謎の発生→ある程度の解が示される→新たに謎が生じるという流れがテンポ良く展開されており、飽くことなく読み進める事ができました。
5巻では、大きな謎の一つであった「実験をやらなければならなかった原因」についても語られていました。それに関連する情報について、5巻以前で結構はっきりとヒントが出ているにも関わらず、そのシーンでの情報の提示のされ方によって、私の意識からは逸れていました。この事から、情報の散らし方が上手かったと感じました。
サブキャラクターの影が薄かった
残念だった点。登場したサブキャラクター達の影が薄かったと感じました。
物語の要素として、各人が整理して配置されているのはよく分かります。ただ、その役割が明確になり過ぎている分、人間味が薄く感じられました。
また、個々人のエピソードがあまり深掘りされなかったのも、印象を薄く感じた理由だと思います。
その結果、主人公である茜の彼らに対する気持ちと、読み手の彼らに対する気持ちに温度差が生じたと感じます。
本作はフーダニット(犯人当て)や、読者へのフェアプレイ(騙し討ちのような前提の提示、真相解明がなされる事を避ける)など、"本格ミステリ"的な要素が強いと私は感じました。
そうした本格ミステリにおいて、よく批判される「人間が描けていない(機械的に配置されるキャラクターが多い)」という話が、いみじくもそのまま本作における弱い点にも当てはまると感じました。
ただ、登場人物のエピソードを描くのにページを割けば割くほど、中身が間延びして、本作の良点だと思うテンポの良さは失われます。そのため、この点は如何ともし難いのだろうとも思います。
なお、主要キャラクターであると思われる茜・さやか・紗耶(茜の姉)については充分な描写がされていたと思います。
何通りもの回答を用意していた(らしい)事について
後書きに載っていたお話から。
本作品では、いつ連載が終わっても問題ないように、結末を何パターンか用意していたと書かれていました。このようなリスクヘッジは、他の漫画家さんもやっている事なのでしょうか?
私が知る限りでは、藤崎竜さんが『封神演義』の連載を開始した際に、どこで打ち切られても良いように終わり方を考えていた、という逸話を何処かで聞いた記憶があります(単行本内のオマケページだったかな?)。
本作のように謎解き要素が根幹を成すストーリーにおいて、複数の結末を用意するのは特に大変な苦労だった事と思います。
ただ、そうした複数の結末を用意して、どの方向にも倒せるようなシナリオを構築する事は、一点突破で結末を用意するよりも、労力を要すると思います。そういう意味で、労力分散が生じたであろう点は少々残念だったと思います。
たとえば、ある伏線を用意し、それについて複数の解釈ができる余地を残すとすると、その中身について考える時間も掛かるし、何より一つ一つの伏線の意味が相対的に弱くなります。
後書きでは、回収できていない伏線もあった的な事も書かれていましたが、これは複数ルートを裏で設定していた影響なのかもしれません。本作で迎えた結末の中では意味の薄い伏線だったため、回収がカットされたという事だと思います。
しかし、もしそれが初めから不要だと切っていれば、結果論ですが、その分のページ数をキャラクターの掘り下げに使う事もできたわけです。
ただ……更に後書きからの引用ですが、有田さんはサウンドノベルが好きであるとも書いていました。複数ルートへの道筋を作る、その案を練る事自体の面白さが、作品を描く上でのモチベーション維持に一役買っていたのも間違いない事実なのだろうとも思います。
そのため、上で書いた、後でカットするのなら最初から描かなくてもよい筈という私の考え方は、単純かつ暴論であるとも思います。
まとめ
本作で私が感じた、良かった点と残念だった点について、まとまりなく書き連ねましたが、一番伝えたい感想は、5巻という分量の中で、ループ物という題材を見事に描き切った作品だったという事でした。面白かったです。
有田さんの次回作で、今作以上に練られた構造の物語を、また読む事ができる事を期待しています。
以上、『はっぴぃヱンド』5巻の感想でした。