あるこじのよしなしごと

妻・息子2人(2014生:小麦アレ持ち/2019生)と四人で暮らしています。ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、育児、その他日常等について綴っています。

ドラマ『あなたの番です』20話(最終話)の感想・考察

ざっくり言うと

ドラマ『あなたの番です』20話(最終話)を観ての感想・考察。本作はミステリではなくサスペンスとして捉えるべき作品だった。最終話で良かった場面とモヤっとした場面、またラストシーンについて言及する。

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

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ドラマ『あなたの番です』の20話(最終話)を視聴しました。本記事はその視聴結果を踏まえ、感想や考察を述べたものとなります。

感想

本作はミステリではなくサスペンスだった

黒幕候補として一番怪しい黒島がそのまま黒幕というラストでした。正直物足りない部分もありますが、この決着の仕方自体は理解できる内容でもあったと思います。

私を含め、色々複雑なラストを考えた人は沢山いたかもしれませんが、数ある伏線に素直に解釈を付けるなら、やはりこのラストしかなかったのかなと思います。

ただ、観ていて非常に微妙だなと思ったのは、黒島の菜奈殺害時のアリバイが監視カメラによる偽装だった、しかもそれが全くの後出しだった点です。

多くの人は黒島にアリバイがある事から、彼女自身は黒幕であろうとなかろうと、実行犯ではないと考えた筈でしょう。しかし、このような情報提示がされると、推理・考察のしようが無いのです。

よくミステリ作品の原則として、ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則などが語られる事がありますが、これらの根底にあるのは、受け手に対してフェアであれという精神です。そうした精神からみると、黒島のアリバイに関する情報の出し方は極めてアンフェアだったといえます。

一方で思ったのは、本作は元々ミステリではなく、サスペンスとして捉えるべきだったという事です。

これら二つのジャンルに明確な定義は無いのですが、私の中で持っている定義は以下の様なものです。

  • ミステリ:作品の途中で結末を推理できるだけの情報および合理性があり、その整合性が魅力の一つである。
  • サスペンス:作品の途中では必ずしも結末を予想できない。その分、ラストまで引っ張る謎やその結末の意外性が重視される。

 

ちなみに"サスペンス(suspense)"には直接的には「下に吊るされた」という意味があり、そこから転じて「ハラハラしている、緊張感が継続している」という意味があります。

この定義で考えてみると、本作は紛れもなくサスペンスだったといえます。

ラストにおいて黒幕がそのまま黒島というのは意外性に欠けたものの、本作の毎話における予想できない展開や、黒島が赤池幸子の孫だったという話、その後赤池幸子が屋上から落下して謎の死を遂げるという怒涛の展開はまさにサスペンスのそれだったといえましょう。

ただ、本作はサスペンスとして捉えるべき内容だったにも関わらず、受け手の多くがそうは捉えなかったのは不幸な出来事でした。

これは偏に、手塚翔太と菜奈がミステリマニアであるという設定が受け手を強くミスリードしたものと感じました。

彼らの部屋の本棚に置かれていた著作群をみてもミステリとしての名作が多かった事、また『モルグ街の殺人』をネタ元とする"オランウータンタイム"という符丁などから、『あなたの番です』もミステリ的である(情報がフェアに提示され、論理的に紐解く事ができる話である)と考えた人がやはり多かったのではないでしょうか?

ただ、改めて考えてみると、微妙な違和感もありました。私がそれを感じたのは19話で、翔太が「ラストシーンは崖」である点にこだわろうとした場面です。

しかし、ラストシーンが崖というのは、いわゆる2時間ドラマのテンプレであって、ミステリ(特に本格推理もの)では必ずしもお約束ではありません。

むしろこれは、まさしくサスペンス作品の象徴でもあります。

菜奈ちゃんは本格推理が好きであるが、翔太はミステリー"的"な作品が好き、というだけなのかもしれませんが(実際、真相に自力で辿り着けそうだったのは菜奈だけでしたし……)、これは今思えば、加熱し過ぎる視聴者による推理の熱を少しでも冷まそうという制作側の意図が込められていた場面だったのかもしれません(……というのも、深読みのし過ぎでしょうか?)

最終話で色々気になった点

一番引っかかったのは黒島のアリバイが偽だった点ですが、それ以外で、何かと気になった点を挙げてみます。

ゾウとキリンの選択

ゾウとキリンについては、巷で噂されていた通り、翔太を殺すか菜奈を殺すかの選択でした。

これ、「菜奈ちゃんがゾウって答えたらどうするつもりだったんだ?」と思いました。まあ、菜奈ちゃんなら絶対にキリンを選ぶだろうから気にしなかったのかなと思いますが。

また、やり取りの最中で内山が席を外すのだけはあり得ないですよね。

数的有利を自ら放棄する振る舞いです。反撃されないとも分からないのに。展開的にビデオに映したくないのだとしても、黒島の背後にいれば何の問題もありません。

あと、何となくだけど、フランス語の男性名詞/女性名詞の説明の入れ方が不自然過ぎて、本当はそんな設定は無かったが世間で噂されていた考察に後から乗っかったのか? とも思いました。

内山が有能&ハードスケジュール過ぎ

内山がインターンって設定はやり過ぎでしょう……おまけにファミレスでもバイトして、更に黒島のストーキングまでしている。いつ寝てるんだと突っ込まざるを得ない、ハードスケジュールです。

そりゃあ、食肉加工場のバイトも短期で止めるわけですよ。

またあれだけ挙動不審に見えるのに、バイトの面接に受かりまくるのも、なかなかシュールです。やはり、いつも笑顔なのがポイント高かったんでしょうか。

甲野殺し時のプレート奪取

ここは他の人と意見が違うかもしれませんが、特に違和感は無かったですね。

プレートを付けてないのは事前に調べが付いてたでしょうから、殺す際に咄嗟に探ると予め決めていたなら、その場所は胸ポケットだけでしょう。

そこに無かったらどうするんだ? と思われるかもしれませんが、その場合はどうでもよくて、ただ今回はたまたまポケットにあったから回収できた、それだけのことです。

別に絶対に回収しないといけない物ではないので、無ければ無いでそのまま問題はなかったんでしょう。

赤池幸子殺害時の「似合ってる」発言

赤池幸子が翔太に出したヒントの「似合ってる」という言葉。

ウェアを菜奈がプレゼントした場面の台詞と重なるところから、菜奈か江藤の関与を誰もが考えたと思うが、正解は黒島が殺害時に掛けていた一言だった……。

これはひどい。推理できる要素が一ミリも無い。

菜奈と江藤が言ったと見せかけて全然違う人でした、という引っ掛けなのでしょうが、観ている側は単にイラッとくるだけです。

後から振り返ってみると、この手の伏線……というか、レッドヘリングが大量にばら撒かれていましたね、この作品は。

管理人さんが書いた「吉村」

管理人さんが紙に書いた事が明らかとなった「吉村」。

住人の"西村"と似た字面だったことから、そことの関連が疑われたが、正解は麻雀仲間で管理人さんをよく狙い撃って和了していた男の名前(最終話でいきなり登場)だったのだ……!

いや、だから分からんって。

これに関しては説明が無い方がむしろ良かったとすら言える。そうであれば、管理人さんが西村と書いたが読み間違ったとか、最初は冗談のつもりで西村と書いたが怖くなって書き直したとか、幾らでも解釈の幅が残ったのに……。

もちろん、作中で真相が明らかにならなければ非難はされたかもしれないが、この取ってつけたようなオチよりはマシでしょう。

浮田殺しをほぼ一人でこなした黒島の怪力

赤池美里・吾郎殺しを単独で成し遂げた事よりもヤバイなと思ったのが浮田殺し。黒島、パワフル過ぎませんか?

たとえば、看護師の桜木は翔太のジムに通っている中で、そのパワフルさが示される場面がありました。そのため、桜木なら浮田殺しも出来そうにみえたのですが、黒島についてはそこまでパワフルであることを示す伏線が無かったのは頂けません。

例えば翔太のジムに体験でやってきて、「意外と黒島ちゃん力持ちなんだなー」みたいなエピソードを一つ入れておけば良かったと思うのですが……。

あとは、そもそも浮田さんこそスーパー有能マン内山に運ばせればいいと思ったんですが。黒島一人でいたならまだしも、内山もこの場面にいたんですよね。何のための男手なのか?

物語構成としては、ここで黒島が浮田を運ばないと、展開的にトイレに彼女の足跡が残り得ないので、不自然だが彼女が運んだという流れにするしかなかったのだと思われます。

ただ、別にこの場面で足跡を残さなければならない必然性があるとは感じられないんですよね……この辺は脚本の雑さを感じます。

この場面は素直に内山に運ばせておいて、別の場面で足跡、あるいはそうでなくても黒幕の身体的特徴を暗示するヒントを出せばそれでよかったのにと思いました。

最終話で良かった場面

上の項では本作の整合性に関する疑問点を色々挙げましたが、物語としてグッとくる場面があったのも確かです。ここではそれらの点を挙げてみました。

菜奈ちゃんの告白シーン

何と言っても印象的なのは、この場面でしょう。翔太ではなく自分が死ぬ覚悟を決めた上で、彼に自身の思いの丈を伝えるシーンです。

二人の間の愛情は確固としたものを感じましたが、年の差婚という事や細川の存在を隠していた事などから、菜奈から直接的な愛の言葉を翔太に投げ掛けることは普段あまりなかったのだろうと推測されます。

そんな菜奈が死ぬ直前、翔太に遺した言葉の重さ、懸命さが痛いほど伝わってきました。残酷ながらも、名シーンだったと思います。

南さんが靴を見つける場面

「事故物件住んでみた芸人」という仮面を被り、5年もの間、ひたすら愛娘を手に掛けた犯人を探し続けてきた南さん。

彼の努力が結実するのが、黒島の部屋から娘・穂香の靴を見つけた場面でした。

靴を見つけたところで娘が生き返る訳ではなく、その死という事実は変わりません。しかしそれでも、ただ日々を過ごすだけではやりきれず、犯人への復讐心を胸に長い間を南さんは過ごしてきたのですよね。

そんな彼がとうとう見つけた、犯人による殺人の実質的な証拠。しかも警察もそこにはおり、犯人が捕まるのも時間の問題です。これで南さんの敵討ちは無事に終わるのです。

それでも、靴を見つけた時の南さんは、犯人への思いは一時的に消え、その靴を履いて運動会のかけっこで一位になった娘が、願掛けのようにその靴をずっと履いていた……その思い出を胸にただただ泣くばかりでした。

正直、最終話を観ている際は南さんの存在はあまり考えてなかったので、まさか彼の姿に泣かされるとは思ってもいませんでした……。

キウンクエ蔵前を晴れやかな様子で退去する南さんの姿も良かったです!

ある種幸せそうな田宮さん

物語の最後、住人たちの様々な様子が描かれる場面で、一際輝いてみえたのが奥さんの面会時に『ロミオとジュリエット』を演じる田宮さんでした。

波止を殺してしまった田宮さんでしたが、その動機は交換殺人からではなかったですし、また自分が名前を書いたことで命を落としてしまった甲野に対してもきちんと詫びに行っていました(周囲の反応から、お香典は回収してしまいましたが・笑)

真面目の度が過ぎる欠点はあったのかもしれませんが、基本的には善人だったのが田宮さんでした。途中の演劇パートの愉快さもあり、私にとっては好感が持てるキャラクターでした。

警察による取り調べ時、波止を殺した時の記憶がなさそうな描写があったので、トドメを刺したのは内山または黒島で田宮さんは実は殺してない(殴打止まり)→殺人罪までは問われず、という展開を期待したのですが、特にそうした説明はされなかったので、結局波止を殺害したのは田宮さんだったというのが結論なのでしょうね……そこは個人的にちょっと残念でした。

ラストシーン(赤池幸子殺害)について

正直、これはぶん投げラスト(特に意味は無く、真相も考えられていない)と思っています。

最後の場面では翔太や二階堂に「あなたの番です」と回ってきますが、彼ら二人は何の交換殺人にも参加しておらず、ターゲットが存在しません。だとすると、あのメッセージを二人に伝える事に実質的な意味は見当たらないのです。

ネットで読んで面白いなと思った案は

赤池幸子を殺したがっているのはドラマを見ていた視聴者であり、その意志で彼女は死んだ。

回ってきた車椅子のメッセージは、翔太と二階堂ではなく視聴者をターゲットとしたもの。

という話でした。

これは納得のいく説だと思いましたが、一方で、もしそうならこれまで全くそんな振りは無かったのにラストにいきなりそういうメタなオチを入れるなよという気持ちにも少しなりました。

何にせよ、ラストの赤池幸子殺害は考えても仕方ないポイントだと思ってしまいました。せめて最終話の展開がもう少し納得のいく話であれば、考える気力も湧いたのかもしれませんが……。

まとめ

ラストの締め方については賛否両論ありましたし、私自身、納得がいかない点もあったために上で色々と書き連ねましたが、多くの人を魅力ある謎と意外性のある展開で巻き込み、一大ムーブメントを生みだしたという点では紛れもなく名作だったというのが偽らざる本音です。

最後の着地点こそ、ちょっと……という気持ちにはなったものの、その意表をつく展開には度肝を抜かれましたし、各話の狭間において考察をしている時間はとても楽しかったです。

その他には、菜奈と翔太の間の愛情、その存在を喪ってしまった翔太の絶望・悲しみ、そしてAIを通じて心に空いた穴を徐々に埋めていく温かくも切ない流れなど、サスペンス以外の部分にも魅力はあったと思います。

総じてみれば、良いドラマだったというのが自身の感想です。

ちなみに本作の続編を望む声もあるようですが、個人的にはこのキウンクエ蔵前を舞台としての続編はあまり期待しないですね。ここから更に同じ住人たちでドラマを展開するのはキツいでしょう。

キウンクエ蔵前で起こった事件をテレビで観ていた人々が、別のマンションでその真似事をしてみたら……みたいな話だったら是非続編も観てみたいと思いました! 

 

なお、10月からは同じ枠で『ニッポンノワール』というドラマが放映されるみたいですね。

この作品も謎と考察を楽しめる、原作の無いオリジナルドラマらしいので、できれば観てみたいと思います。

以上、ドラマ『あなたの番です』20話(最終話)を観ての感想・考察でした。

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