ショートドラマ『ホラーアクシデンタル』の感想。「ある家族の会話」「百年の孤独」(5〜6話)について。心霊現象ではなく人間の怖さが表現された作品。
こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
オムニバスドラマ『ホラーアクシデンタル』5〜6話の感想です。いずれもYouTubeにてオフィシャルに公開されているため、動画についてリンクを張りつつ、各話の感想を書いていきます。
『ホラーアクシデンタル』とは?
2013年にフジテレビで不定期に放送されたテレビドラマです。各話7分程度のショートドラマで、現在もYouTubeでオフィシャルに公開されており、自由に視聴が可能です。
ジャンルはホラーなのですが、いわゆる幽霊や怪奇現象の類は登場しません。描かれるのは、現実でも起こりうる人間の怖さです。なお、大きな音などによって驚かそうとする演出もありません。びっくり系のホラー動画などが苦手な方でも、純粋にストーリーを楽しめる作品だと思います。
以下、公式動画へのリンクと感想を記載しています。短いドラマですので是非視聴して頂いて、その面白さを共有できればと思います。
5話「ある家族の会話」
動画リンク
タイトルの由来
イタリアの作家、ナタリア・ギンズブルグの小説。
- 作者: ナタリアギンズブルグ,Natalia Ginzburg,須賀敦子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1997/10/01
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感想
個人的には話の構成、描かれている人間の怖さ、共にホラーアクシデンタルのトップクラスといえる作品だと思う。
妻から糾弾されている夫は、会社の女性から贈られてきたプレゼントについて、弁明を繰り返す。きっと不穏な物に違いないと夫は妻に伝えるが、箱の中から現れた物は、熊の可愛らしいぬいぐるみだった。
プレゼントの中身を確認し、夫の言葉を単なる言い逃れだと判断した妻は激昂し、眠い目をこすりながらリビングに現れた娘に対して八つ当たりのような振る舞いをする。
怒りがピークに達した妻がぬいぐるみに手を振り下ろした瞬間、ぬいぐるみの腹部に隠されていた刃が露わになる。
このインパクトは非常に強烈だ。視聴者は何が起きたのか瞬時には理解できない。しかし、半信半疑だった夫の主張について、それが真実であり、会社の女がヤバい感性の持ち主だということを徐々に実感し始める。手紙に書かれていた通り"ギュッてして"いたら……。
先程まで弁明を繰り広げていた妻に対して、一転その身を気遣う夫の姿はなかなかリアルだと感じる。その後のリアクションを見る限り、彼の位置からも刃は見えているはず。であれば、妻が怪我をしていないのはほぼ明白だ。とすると、彼の言葉は、実際に妻の身を心配する気持ちも勿論あるのだろうが、それまでひたすら責められていた妻に対しても安否を気遣う言葉を掛ける事で、妻との対立関係を解消する狙いも込められているように見える。
妻がその後、錯乱するのは何故なのだろう。やはり、刃を眼前にした事が強く影響したのだろうか? ぬいぐるみに込められた悪意が分かった事で、夫に対する怒りは引きそうなものだが……。それほどまでに恐怖の気持ちが強かったのだろうか。あるいは、ひねた考えをすれば、そうした態度を取ることで、自身が誤って夫を糾弾したことをなし崩しに無かった事にしたい狙いがあるようにもみえる。
贈り主の女はその後どうなるのか。通常、いわゆるプレゼントではない形で包丁を送りつけた場合、脅迫罪が認められる可能性がある。また、このケースでは同梱された封筒の文面により「相手に怪我をさせようとしたが怪我をしなかった事例」と捉えられる事から、暴行罪が認められる可能性もありそうに思える。
ただ、この件について夫が警察に訴え、また会社に伝えれば、夫のこの女との不和が世間に明らかになり、それが痴話喧嘩のようなものと誤解されかねない可能性がある。
男は既婚者だが、そうして痛くもない腹を探られた結果、下手したら夫の妻が邪推したのと同様、不倫の可能性を周囲の人間に疑われる可能性もある。プレゼントを送り付けた女がそこまで見越しての行為なのだとしたら、本当に恐ろしい……。
刃という映像のインパクト、それまで半信半疑だった夫の弁解が一瞬で真実に変わる構成、描かれる強い人間の悪意、背景に関する想像の余地、全てが秀逸だ。
この話は『ホラーアクシデンタル』を代表するに相応しい話といえるだろう。
6話「百年の孤独」
動画リンク
タイトルの由来
スペインの作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説。
- 作者: G.ガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arques,鼓直
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1999/08
- メディア: 単行本
- 購入: 10人 クリック: 1,110回
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感想
5話とは対照的に、いまいちホラーとして捉えにくい作品。なお、サブタイトルについては、小説の名前よりも、そこから名を取られた麦焼酎の方が知名度が高いかもしれない。
夫に先立たれて一人暮らしをしている老女。彼女は寝るときに洋服を畳む、子ども110番の家などの活動に参加する、家の至るところに貼り紙をして自身を律する、「いいことはおかげさま、わるいことは身から出たさび」の標語を大事にしている……など、基本的に人格者で、かつ、ルールを律儀に遵守しようとする人間であるとみて取れる。
そんな彼女がいわゆる「昔からの慣習」として七草粥を作ろうとして、結果それが火事の原因となってしまう。普通、鍋に火をかけたまま寝るだろうか?とは思うが、そこは老人の行為なので、ついうっかり……という事なのだろうと納得することにした。
この話を人間の怖さと結びつけて考えたときに、もしそうだったら怖いなと思うのは彼女が何者かによってコントロールされて殺された場合。
しかし、「百年の孤独」というサブタイトルからして、彼女を殺そうとする人間すらいない程度に、彼女は孤独なのではないだろうか。そうなると、彼女の事を殺して得をする人物がいるとは考え難い。
また、仮に遠隔殺人だとしたら、その手口はあまりにも偶然任せになり過ぎる。いわゆるプロバビリティの殺人(直接手を下すのではなく、偶然を味方につけて相手を殺害する事で故意犯としての追及をかわす手口)という線もあるのかもしれないが、素直に考えれば、彼女が誰かの意図で殺されたと考えるのはやはり無理があるだろう。
この話で火事になった原因の一つとして映像で示唆されるのは、火災報知器のコンセントを抜いていたこと。「節電」という標語を錦の御旗としていた老女は、それによって丁寧に毎晩(かな? 日中は付けていたかも)火災報知器のコンセントを抜く事で、"節電"に勤しんでいたのだろう。この点から考えられる「恐怖」の要素は二つあるように思った。
一つは、情報やルール、心得というものの背景を考慮せずにそれに従うことの怖さだ。節電は確かに大事な精神だが、火災報知器は常時コンセントを入れておかなければ意味が無い。そこを考えず、盲目的に「節電」を遵守した事が火事に繋がってしまった。情報過多な現代社会において、ある意味それに振り回されてしまった悲劇ともいえる。
もう一つは、老いによる判断力の低下だ。この老女自身、標語を自宅に貼ったり、規則正しい生活を送ったりしている事からして、おそらく若い頃からいわゆる人格者として通ってきたのだろう。そうして生きてきた人物が昔から、他人の教えを盲目的に受け入れるほど自主性が無かったとは思えない……とまで言い切ることは出来ないのかもしれないが、やはりちょっと違和感がある。まだ若い頃の彼女だったら、このような事態にはならなかったのではないだろうか。
ただ、個人的な感想として、こういう教訓めいた話はあまりホラーアクシデンタルに求めていないのが正直なところなので、観終っても、うーん……って微妙な気持ちになるんですよね。
この話に対する自身の理解度が足りないだけなのかもしれませんが、正直イマイチな話かなと感じるのでした。
以上、ドラマ『ホラーアクシデンタル』5〜6話の感想でした。