あるこじのよしなしごと

妻・息子2人(2014生:小麦アレ持ち/2019生)と四人で暮らしています。ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、育児、その他日常等について綴っています。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第37話「ゴルフ・ドミノ倒し」感想

ざっくり言うと

お客様はプロアマのゴルフイベントに参加する事になった会社社長。ショットがギャラリーに当たる可能性を恐れた彼は喪黒さんに相談するが……。実際プロアマにも参加されていたであろう藤子A先生自身の悩み?

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第37話の感想です。
感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性があることも、ご了承下さい。

第37話「ゴルフ・ドミノ倒し」

お客様について

会社社長の泡戸退三です。名前の由来はプロアマ参加が決まって「慌てている」ことから? あるいは本エピソードのラストで生じる事態に慌てるためかもしれません。ちなみに、アニメ版だと名前が「泡手退三(あわてたいぞう)」と微妙に変化しています。その事から"慌てる"という言葉が名前の由来であることは間違いなさそうです。

ゴルフが話のテーマとなるのは12話の「ゴルフ入門」、25話の「ゴルフフリーク」に続いて三作目です。

笑ゥせぇるすまんではゴルフネタが非常に多いです。藤子A先生がゴルフが本当に好きだというのが伝わってくる気がしますね!

お客様である泡戸は「スターゴルフ プロアマ」というゴルフトーナメントに招待されます。有名人ばかりが招待されるイベントですから、ゴルフが好きな人にとっては大変名誉なことでしょう。

12話と25話ではお客様がそれぞれゴルフ初心者とブービーメーカーでしたが、泡戸社長はそれに比べるとまともな腕を持っているようです。

そんな社長の悩みはというと……

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社長はギャラリーがいる中でゴルフなんてした事が無いんですね。だから、自分の打ったボールがギャラリーにぶつからないかを危惧しているようです。言われてみれば、普通の人はそんな状況でゴルフをしたことないでしょうね。社長の悩みはもっともです。

この悩みは、ひょっとして藤子A先生が実際に持たれていた悩みなのかもしれませんね。ゴルフが大変好きな藤子A先生は、同じようなゴルフトーナメントに出られていた事もあったのではないでしょうか。

当時の先生は『プロゴルファー猿』などゴルフ漫画を描いていた事もあり、その先生がゴルフトーナメントに出るとなると注目もされたでしょうし、大変なプレッシャーになった筈です。

この話に登場する泡戸は、そんな先生自身の気持ちから生まれたお客様だったのかもしれませんね。

ドライバーか5番アイアンか

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さて、泡戸は部下の提案により、社員をギャラリーに見立てて練習するのですが、危うく怪我人を出しそうになり、余計に不安が増してしまいます。そんな中、クラブハウスのお風呂で喪黒さんは泡戸に接近します。

ちなみに喪黒さんの名刺が防水仕様であることが語られるのは第27話「温泉奇行」に続いて2回目ですね。お風呂場でお客様に近付く機会がそこそこあるが故の、喪黒さんなりの"企業努力"なのでしょうか(笑)

泡戸は喪黒さんによるアドバイスで、社長は見事にプレッシャーを克服します。

喪黒さんから社長へのアドバイスは幾つかありましたが、重要なのは

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必ずホールの初打は5番アイアンで打つこと、という点でした。

ちなみにアマチュアプレイヤーの平均飛距離をみると、5番アイアンで打った場合は160ヤード前後なのに対し、ドライバーは200〜230ヤードとの事です。つまり、ドライバーでなく5番アイアンで打つと、飛距離は大体2〜3割減という事になります。アイアンで打つとドライバーに比べて、飛距離についてはだいぶ見劣りするという事ですね。でも、ギャラリーにぶつけないためには仕方ないですね。

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しかし、やはり横槍が入ります。ドライバーで打ってみてはどうか、という悪魔の囁き。これはゴルフトーナメント参加を待たずに破滅かと思いきや……

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意に反して、ドライバーによるショットは上手くいきます。

喪黒さんの忠告が不発? ……と考える読み手は殆どいないでしょう。むしろ、これから起こるであろう未来の悲劇を想像して、薄ら寒くなってきます。

ちなみにここでドライバーを使っても問題が起きなかったのは、喪黒さんの悪戯心とも取れますし、あるいは、ゴルフトーナメント本番ではなかったが故に社長の緊張感が高くなかったからとも取れます。前者だとしたら、喪黒さんも底意地が悪いですね……。

そしてドミノは倒される

プロアマゴルフトーナメント当日。ギャラリーは誰も泡戸社長本人には注目していないのですが、同組として共に回るプロゴルファーや野球選手、俳優らが大人気のため、泡戸社長もプレッシャーが掛かります。

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そして迫る選択の時。泡戸社長は5番アイアンではなくドライバーを選んでしまいます。

一度打ったときはドライバーでも問題なかったのだから……そんな事を社長は間違いなく考えたことでしょう。しかし、それはあくまで練習の時であって、本番は掛かるプレッシャーが違うのだということが社長には分かっていませんでした。

大方の読者の予想通り、社長はミスショットをします。それがギャラリーにぶつかり、直撃を受けたギャラリーが倒れると、周囲の人が皆、将棋倒しになってしまいます。間違いなく怪我人が出たことでしょう。社長の恐れていたことが現実になってしまいました……。

ちなみに、12話「ゴルフ入門」のときは、被害者にゴルフクラブが直撃したため死亡したような描写となっていました。一方でこの話では、明言はされていないものの、死者が出たとまでは感じられませんでした。被害者こそ出たもののまだ怪我で済んでいるように思われます。

ゴルフネタを取り扱う12話・25話・37話に共通しているのは、本人は怪我を(とりあえずは)しておらず、必ず周囲の人が怪我または死亡するという点です。この点は笑ゥせぇるすまんという作品の嫌らしさが如実に表れていると言えます。程度にもよりますが、自分が怪我をするよりも、心ならずも相手に怪我をさせてしまう方が社会的なダメージが大きいという点を喪黒さんは知り尽くしているんでしょうね……恐ろしいです。

泡戸の法的責任について

物語は泡戸のミスショットによって怪我人が多数出たところで幕を閉じます。ところで、この泡戸の行為は実際、どこまで咎められるのか。つまり、法的責任があるのかどうか。気になったので調べてみました。

一般的にゴルフのギャラリーが観戦中にボールがぶつかるなどして怪我をした場合、それは自己責任として扱われるようです。プレイ中は自分で注意し、ボールが飛んできても自分で避けるか守るかして、とにかく自分の身は原則自分で守らなければならないようですね。

故意にギャラリーを狙った等ならともなく、泡戸社長にそうした意図が無いことは明らかです。「本番の前に、会社の部下を並べてボールを当てないように練習していた」という事実も、この事を後押ししてくれる気がします。その点で、この練習には一定の意味があったと言えそうです。「危険性を認識していたのに何故招待を断らなかったのか?」と指摘される可能性もまたあるのかもしれませんが……。

ともかく、ギャラリーにボールをぶつけた事についての法的責任を泡戸社長が問われる可能性は低いでしょう。

但し、泡戸は会社の社長という立場です。法的責任を問われないとしても、会社のイメージダウンは免れないでしょうから、やはり彼の未来は明るくないものと予想されます。

以上、『笑ゥせぇるすまん』第37話の感想でした。


§ 本記事で掲載している画像は藤子不二雄A『笑ゥせぇるすまん』より引用しています。


 

笑ゥせぇるすまん (3) (中公文庫―コミック版)

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