ショートドラマ『ホラーアクシデンタル』の感想。「心は孤独な狩人」「白い闇」(9〜10話)について。心霊現象ではなく人間の怖さが表現された作品。
こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
オムニバスドラマ『ホラーアクシデンタル』9〜10話の感想です。いずれもYouTubeにてオフィシャルに公開されているため、動画についてリンクを張りつつ、各話の感想を書いていきます。
『ホラーアクシデンタル』とは?
2013年にフジテレビで不定期に放送されたテレビドラマです。各話7分程度のショートドラマで、現在もYouTubeでオフィシャルに公開されており、自由に視聴が可能です。
ジャンルはホラーなのですが、いわゆる幽霊や怪奇現象の類は登場しません。描かれるのは、現実でも起こりうる人間の怖さです。なお、大きな音などによって驚かそうとする演出もありません。びっくり系のホラー動画などが苦手な方でも、純粋にストーリーを楽しめる作品だと思います。
以下、公式動画へのリンクと感想を記載しています。短いドラマですので是非視聴して頂いて、その面白さを共有できればと思います。
9話「心は孤独な狩人」
動画リンク
タイトルの由来
アメリカの女流作家、カーソン・マッカラーズの小説。
感想
真っ先に思ったのは、女の人、勇気あり過ぎという点。あからさまに不審な男相手にあそこまで正面から止めろと言えるのはすごい。
初回で特に何か言わなくても立ち去ったのなら、私ならもう仮にニアミスしても放っておくけど……まあ、それだと広告を入れられるのは止まらないでしょうね。広告の投函行為が余程嫌だったのか、あるいは何も言わなくても男が立ち去ったからこそ強気に出られたのか。
この作品は行われている行為があまりに地味で、そこまで怖さを感じなかったんだけど……これは私が男だからなのかもしれませんね。女性の立場からすると、もっと生理的嫌悪感や恐怖を感じる作品なのかなと思う。
男の行動について
男は1回目は広告配りをしている所を目撃されて逃亡する。ここで、注意してきた彼女を好きになった可能性が高そう(男が女に好意を抱いたと解釈した理由は後述)。
2回目の広告配りの後に、逃亡したフリをして、彼女がいなくなってから舞い戻り、広告の有無で彼女のポストがどれなのかを探った可能性が高い。そして、3回目で「犯行」に至った。こんなところでしょうか。
よって、初回の出会いは偶然だったと思うが、2回目・3回目は待ち伏せによるものと考えられる。
小瓶の中身と男の心理について
男がポストに残していった小瓶には一体何が入っていたのか?
素直に考えるなら、男の体液だろう。しかし、一方でそう見せかけた別の物という見方もできる。果たしてどちらが正しいのか?
個人的には、答は前者の可能性が高いと感じる。それは何故かというと、前者についてはその動機について深く考えれば様々なケースがあるように思うが、後者の場合(体液に見せかけているが無害の何か)には、単なる嫌がらせ以外の動機が想像しづらいためだ。
このエピソードのタイトルである「心は孤独な狩人」について。この狩人とはエピソードに登場する男または女のどちらかを指すと思われる。そして、狩人という何かを狙う意図がありそうな人物となると、やはり女よりも男の方が該当しそうに思える。
となると男は、狩人であると共に、孤独であるとタイトルからは読み取れる。そんな彼が孤独を埋める行為に及んだのだとすると、それは少なくとも単なる嫌がらせではない別の意図がある何かではないかと思うのだ。
男は孤独感から、女との繋がりを求めたのだろう(彼女のどこに具体的に惹かれたのかまでは、残念ながら分からない)。しかし、男はそれまで他人と正常にコミュニケーションを取る経験に乏しかった。
彼なりに悩んだ結果、投函されたのが、あの小瓶だったのではないだろうか。単に、文句を言われた事への腹いせなどで行われた行為ではなかったと私は思う。
ただ、男にとっては嫌がらせでなかったとしても、それをぶつけられた女にとってはたまったものではないのは言うまでもない……。
こう解釈すると、私の中でこの話は人間によって単純に悪意をぶつけられることの怖さを描いたものではなくなる。人と人とは分かり合えない、そうしたディスコミュニケーションが時に悪意として映る事があるという内容だと私には感じられた。
10話「白い闇」
動画リンク
タイトルの由来
ポルトガルの作家、ジョゼ・サラマーゴの小説(『白の闇』)。または、日本の作家、松本清張の小説(『白い闇』)。
- 作者: ジョゼ・サラマーゴ,雨沢泰
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2008/05/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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感想
先に、由来となった作品について。邦訳で「白い闇」となっている海外の小説作品は見当たりませんでした。
タイトルがそのまま当てはまる作品としては松本清張の短編にあるのですが、タイトルの由来となっている作品はいずれも海外作家の著作かつ長編という共通点があるため、この作品のタイトルの由来となった作品はポルトガルの作家、ジョゼ・サラマーゴの『白の闇』と思われます。
さて、作品の感想ですが……主人公の女性、勇気ありすぎPART2。室外に落ちている野菜を見ても訝しそうに感じるしかできないのは理解できるが、室内(玄関先)に落ちているナスを見たらどう考えてもヤバイと思う気がするんだが……。まあ、そこで逃げ出してしまったらドラマとして成立しないから、仕方ないけど。
もし自宅が荒らされていたら、まず部屋から離れた上で警察に電話した方がいいと教訓になりました。この話では明らかに男は隠れ潜んで彼女を待ち受けていたのでしょうが、普通の空き巣が逃げ遅れて部屋に隠れているケースもあるでしょうから。室内でそいつと出くわして、刺されでもしたら最悪ですからね。
この点、少し気になって調べてみたら、上のような記事がありました。詳細はリンク先の記事に譲るとして、やはりこの中でも
家の外に出て警察に連絡
との記述がありました。
男の侵入経路について
まず、男は当たり前のように室内にいるのだけれど、一体どこから入ったのか?
山下リオ演じる主人公の女性が帰宅した際、開錠しているかどうかがよく見えないが、鍵を持っているようなチャリンという音が鳴っている事から、普通に鍵を開けて帰宅したようだ。
その後の施錠もしっかりしており、不用心が原因で男の侵入を許した訳ではないらしい。だからこそ、女性はナスについて違和感を覚えながらも、リビングまで歩を進めたに違いない。
とすると、窓ガラスを割っての侵入? しかし、部屋は4Fであることが女性がエレベーターから降りる場面で示されている。4F……どうだろう、登れるかな? あとは隣の部屋の住人がベランダ伝いに来たって可能性も考えられるか。
その他には、彼がマンションのマスターキーを持っていて、それを使って侵入した可能性もあるけど……。
どうも、この点は何ともすっきりしませんね。個人的に一番ありえそうに思ったのは隣の住人説だけど、そもそも、この点に突っ込みを入れるのが野暮という話かもしれない。
野菜が落ちていた事について
物語を彩る要素として欠かせないのが、マンション外から点在していた一口齧られて捨てられている野菜の存在。
物語上の構成として、起きた事象の不可思議さを高める効果、またラストシーンのインパクトを強める効果があるのは確かだけれど、細かく紐解いていくと、この事態がどうやって生まれたのかは不可解だ。
たとえば、犯人が部屋を出ていく際に、冷蔵庫から取り出した野菜を齧っては捨てて、外に出て行ったのだろうか?
しかし、それなら犯人がまだ室内にいるのはおかしい。
実際には犯人が二人いて、その内の一人だけが上で書いたような行動を取ったのか? これなら少しだけ理屈が通るような気もするが、そもそも犯人の狙いは、ラストシーンから推測するに住人の女性を襲うことにある。それなのに、何故わざわざ彼女が警戒しかねないような事をするのかは理解に苦しむ。また、犯罪の形態からして、複数犯とは考えにくい点もある。
では、動機はさておき、どうやってあのような場面が作られたかを考えてみて、最初の予想とは逆だったと仮定するのはどうか。つまり、犯人は彼女の住居に侵入する際、野菜を齧りながらその部屋に近づいていったという見方だ。これなら二人でなく一人でも、少なくとも"セッティング"は二度手間にはならない。
しかし、この考えもまたラストのオチからみると、しっくりこない。最終的に男が入ったのは冷蔵庫の中。この事から、落ちていた野菜は元々冷蔵庫の中に入っていて、自分がその中に入るには既に収納されている野菜が邪魔だったから取り出したというのが普通の想像だろう。だとすると、部屋に向かいながら野菜をばら撒くというのではその前後関係が崩れてしまう。
というわけで、侵入後だろうと、侵入前だろうと、わざわざ室内外に野菜をばら撒く行為には合理的にみて矛盾が多いのだけれど……。敢えて、どちらが起こりうるかとみると、やはり前者、つまり侵入後にばら撒かれた可能性が高い。そう考える理由は、野菜をわざわざ外部から調達してきたというよりも、冷蔵庫に入る際のスペースを確保する目的で取り出された物が使われたと考える方がまだ理解できるからだ。
野菜の出所は女性の住居の冷蔵庫。この前提で男の行動を一から整理してみると、以下のようになる。
まず、男は隣の部屋のベランダ伝いに女性の部屋のベランダに移り、そこから窓ガラスを割って侵入する。彼女の私物を一通り物色したところで、冷蔵庫に隠れて彼女が帰宅するのを待つことを思い付く。
しかし、いざ冷蔵庫を開けてみると、冷蔵保存されている野菜等で自分が入る場所がない。そのため、男は自分が入るだけのスペースを確保するために野菜を取り出し、代わりに入る事を思いつく。
そうして取り出した野菜について、男は一口ずつ齧りながら、室内からエントランスホールに向けて野菜をばら撒く事を思いつき、実行する。その後、部屋に舞い戻り、きちんとドアを施錠した上で冷蔵庫の中に隠れ、女性の帰りを待つ……。
何となく行動については整理できたが、これでもやはり疑問が残る。
まず、何故裸で冷蔵庫に隠れたのか。裸で隠れること自体は、後に女性を襲う際の事まで考えていたとすれば理屈は合うが、冷蔵庫に隠れないといけない理由が無い。隠れる場所はクローゼットでも何でもよかったはずなのに。
そして、上で行動を整理してみても、やはりわざわざ野菜をばら撒きに行く合理的な理由は見当たらない。
男の目的について
不可思議な男の行動だが、これについてはもしかしたら、男はただ純粋に女性を驚かせたかったのかもしれない。そう仮定すると、多少は男の取った行動についても納得がいく。
女性が外から野菜を順番に追っていき、辿り着く先である冷蔵庫を開ける。そこで、中に入っていた自分がいきなり現れる事で女性は驚愕する。そんな結果を男は夢想していたのではないだろうか?
その動機は母親を相手に子供が押入れなどに隠れて、びっくりさせようとするような行為と根本的な部分は一緒だ。野菜をばら撒くことで女性の警戒心は増す事になるが、そんな事にも男の考えは思い至っていない。
おそらく、男の精神年齢は通常の男性のそれに比べて、相当に低いのではないだろうか。思えば、最後に男が発する「食べる?」という台詞も、どことなく幼い印象を受ける言葉遣いと言えなくもない。
以上、ドラマ『ホラーアクシデンタル』9〜10話の感想でした。