風太郎が五姉妹のことを尊重していることが感じられる巻。一花は魔が差して、やらかしてしまったが……。風太郎は誰がキスした相手か分からない様子。四葉エンドの示唆が多く、それが逆に怪しく感じられてしまう。
こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
漫画『五等分の花嫁』9巻を読んでの感想です。感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
なお、零奈や写真の子については、実は既に9巻分まで読んだ時点で考察を挙げています。その辺の考察に興味がある方は、下記記事を読んでもらえればと思います。
上記で各種の考察は行っているため、こちらの記事では上記ではフォローしていない事柄について言及しています。
感想
風太郎と五姉妹の現時点の関係性について再整理される
9巻を通して読んで強く感じたのは、風太郎が今の五姉妹について、厄介なお荷物ではなく、自身の励みになる存在として尊重しているという点です。
昔(単行本2巻)は五姉妹について、自分の勉強の邪魔をする存在としてしか、風太郎は考えていませんでした。
しかし、容姿が極端に似通っていながらも多様な個性を持った五姉妹と長く付き合う中で、風太郎は彼女らの悩みや努力に触れていきます。そして、そのやり取りの中でまた自身も苦悩し、それを乗り越えることで、人間的に成長したという事がこの巻を読んでいると伝わってきます。
五姉妹について風太郎はしばしば「馬鹿」という言い方をしているものの、実際のところは馬鹿ではない、少なくとも「強い」存在だと風太郎は認識していることが単行本8巻の中でも描かれていました。
それを踏まえて迎えた全国模試。この巻で風太郎が、彼女らを支えるだけでなく、彼女らの存在に支えられている様子が伝わってきます。
試験勉強中の一コマ。彼のために答案用紙を折って作られた千羽鶴ならぬ五羽鶴をみて、努力している五姉妹を思いながら、自分も努力しなければと風太郎は発奮します。
試験直前では挑発する武田に対し、
こっちは六人いるからな
と返します。五姉妹の頑張る姿を知っているからこそ、自分も頑張れる。互いに高め合える存在と捉えているんですね。昔の風太郎と五姉妹の関係と比べると、凄く良い方に変わったなと感じました。
魔が差した一花
さて、今巻で大きな出来事といえば、やはり一花による三玖への成りすましです。この展開はエグすぎるとか、マガジンっぽくなってきたとか、賛否両論ですね。個人的には、物語の展開として面白くなってきたと思いましたが……。
確かに一花の行動は褒められたものではないのでしょうね。ただ、彼女の行動は計画的ではなくあくまで衝動的なものだったというのはフォローされるべき点かと思います。
一花は映画に出ることでクラスメイトからの追及を受けていました。それを躱すために三玖に変装したところに、たまたま風太郎が現れます。その後の風太郎とのやりとりから、強い独占欲が生まれます。
そして、それまでの他の姉妹とのやり取りを思い出し、「好きな手段を選んで良い」「蹴落としてでも奪う」「やりたいようにしてよい」という思考に陥ります。強いて言えばアドバイスの悪い所取りをしてしまったのですね……。魔が差すとは正にこの事です。
その後は、一度吐いてしまった嘘はもう戻せない、行ける所まで行く、といった考えによって一花は嘘を重ねなければと追い詰められていきます。
この辺りの思考は初オーディションを受ける際に花火大会で皆と過ごすことを放棄する一花の思考と、何処となく重なる気がしますね。ある選択を行った場合に、その選択を貫くことで何らかの無理が生じたとしても、それによって発生する被害は自分が被ることで責任を取ることができるはず、という考え方です。
この時は、花火大会の後に真実を他の姉妹に打ち明けることで楽になったと一花は語っていました。言い換えると、それまでは他の五姉妹に隠し事をしているという事実が、一花にとって強いストレッサーになっていたという事になります。
風太郎のことを手に入れたい一心で嘘を重ねている一花ですが、今は無意識の内に感情を押し殺しているだけで実際には相当辛いはずでしょう。咄嗟に吐いてしまった他の姉妹を出し抜くための嘘から何とか解放されてほしいところですが、今後どういった形で一花にそれが訪れるのかは、何とも分かりませんね……。
考察
風太郎はキスの相手が誰か分からない?
多少考察めいた内容も入れようと思い、こんなテーマを入れてみました。8巻ラストで五姉妹の誰かによってキスされた風太郎ですが、彼はその正体を見破っているのでしょうか?
結論から書くと、キスの相手が誰かは分かっていないものと思われます。
作中の描写からの考察
9巻で一花と過ごす中で風太郎は彼女の唇を一瞥し、上のような思考を巡らせます。キスされた事は(当たり前ですが)彼自身、大分意識しているようです。
ここで風太郎は
あの時のあいつはどう思って…
と心の中で独白しています。もし一花だと思っているなら目の前にいる一花に対して「あいつ」という表現は不自然ですから、少なくとも一花と考えてはいないことが分かります。
他に唇を意識するのは、二乃とのバイト中です。ここでは
まさかな…
と表現しています。丁寧に表現するなら「(二乃がキスの相手だろうか、いや)まさかな…」という気持ちでしょう。しかし、この時の二乃の態度から、キスの相手だったかどうかを計り知れる情報があるとも思えません。風太郎はこれといった材料もなく、二乃がキスの相手かもしれないと考えたという事になります。
この事から、風太郎はキスの相手の目星が付いていないか、仮に付いていたとしてもその答に自信を持てていないものと思われます。
なお、これを踏まえて一花の唇を見た際の「あいつ」という表現について再解釈すると、「(一花以外の)あいつ」という意味ではなく、「(誰かは分からないが五姉妹の中の一人であることは間違いない)あいつ」という意図だったものと思われます。
作外の情報からの考察
また、こちらは8巻の範囲になりますが、エピソード「スクランブルエッグ」のラストシーンです。風太郎は
やっぱり誰だかわかんねぇ…
と言っていますが、風太郎の言葉はとりあえず置いておいて、ポイントになるのは最後の煽り文です。
多少メタ的な話になりますが、この煽り文では
見分けるにはまだ"愛"不足。
と断定形で言い切っています。
「愛不足?」などの煽りだったら解釈が揺れるところですが、小説における"地の文"とほぼ同じく、おそらく嘘は書かれないであろう煽り文という箇所において、「風太郎の愛が不足している(=見分けられない)」と書かれている以上、やはり彼にはキスの相手が誰かは分かっていないと考えてほぼ間違いないでしょう。
今後はどうなるのか?
風太郎はキスの相手が誰か分かっていないようですが、それでは今後どうなるのか?
少なくとも、風太郎がじっくり考えたら誰がキスの相手か分かった、という展開になる事だけはあり得ません。キスをした時点から時が経つにつれ記憶は薄れていくのですから、キスをした直後ですら誰か分からなかったのに、後で考えたら分かるという展開はまず無いでしょう。
可能性としては次のいずれかになるかと思います。
- キスをした本人から告げられる
- 旅行の帰り際、五姉妹の誰が風太郎の所に行ったのかについて誰かから聞かされる
- 本人と再度キスをして、その際の感覚で本能的に気付く
- 誰かは作中では語られない
ありそうな可能性を4つ挙げました。
本命は1です。これが一番すっきりする解決です。
2の可能性もありそうですが、この場合は誰が風太郎にキスしたのか(=誰が花嫁になるのか)が分かった後に、一話分の引きを入れた上で本人からの告白となるでしょう。とすると、展開としてはやや冗長に感じます。そのため、可能性は低めかなと思いました。
3の可能性は物語の展開として無くは無いかなと思って挙げました。ただ実際のところ、他人とキスをしてその時の感触を覚えているというケースはかなり稀な話(普通、唇の感触なんて覚えてない)かなと思うので、ほぼ無いかと思います。
4の可能性については、結局のところこの時にキスをした人が花嫁であると作中でほぼ明言されている(深読みの仕方によっては必ずしもそうとは言い切れないという見方もできるのかもしれませんが、素直に読み取るならキスした相手が花嫁とみていいでしょう)事からの考えです。わざわざ誰がキスをしたと説明を入れなくても、花嫁になった姉妹がキスの相手だったのだと分かるのですから、誰がキスしたかについては説明がカットされる可能性があるという話です。ただ、個人的にはこの時のキスをした人間の心情についてはやはり説明が欲しいところなので、カットされない方が読み手としては有難いところです。
「まだ足りないか」
最後はこのシーンについて。風太郎は
まだ足りないか
と心の中で独白していますが、これはもちろん
37話「勤労感謝ツアー②」の四葉とのやり取りに端を発するものです。
このまま届かない、超えられないままで話が終わるとは思えないので、いつかは四葉の距離に届くまたは追い越す時期が訪れ、それを四葉に披露するシーンがあるのでしょう。
ところで、個人的にどうにも気になるのは四葉と結ばれるようなエンドについて、あからさまに描写されているところです。
はっきり言って、考察を重ねれば重ねるほど、明確な根拠までは無いものの、写真の子は四葉であり、最後に結ばれるのも四葉ではないかという気分にさせられるんですよね……。そうした思考に陥っているだけに、却って、実際は四葉エンドではないのに思考を誘導されているのではないかという気持ちになってきます。私がひねくれているのかもしれませんが、完全に疑心暗鬼(?)ですね。
まとめ
この巻は思い出の地・京都での修学旅行を控え、進級に伴う風太郎と五姉妹の現時点の関係性を再整理しつつ、一花の偽三玖騒動などの不穏な動きがみられた巻でした。
五姉妹と風太郎は様々な思いを胸に次巻、修学旅行へと出発します。果たして彼らにどんな展開が待ち受けているのか。今後も目が離せませんね。
以上、『五等分の花嫁』9巻の感想でした。
§ 本記事で掲載している画像は(C)春場ねぎ・講談社/『五等分の花嫁』より引用しています。