ショートドラマ『ホラーアクシデンタル』の感想。「悪徳の栄え」「失われた時を求めて」(11〜12話)について。心霊現象ではなく人間の怖さが表現された作品。
こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。
オムニバスドラマ『ホラーアクシデンタル』11〜12話の感想です。いずれもYouTubeにてオフィシャルに公開されているため、動画についてリンクを張りつつ、各話の感想を書いていきます。
『ホラーアクシデンタル』とは?
2013年にフジテレビで不定期に放送されたテレビドラマです。各話7分程度のショートドラマで、現在もYouTubeでオフィシャルに公開されており、自由に視聴が可能です。
ジャンルはホラーなのですが、いわゆる幽霊や怪奇現象の類は登場しません。描かれるのは、現実でも起こりうる人間の怖さです。なお、大きな音などによって驚かそうとする演出もありません。びっくり系のホラー動画などが苦手な方でも、純粋にストーリーを楽しめる作品だと思います。
以下、公式動画へのリンクと感想を記載しています。短いドラマですので是非視聴して頂いて、その面白さを共有できればと思います。
11話「悪徳の栄え」
動画リンク
タイトルの由来
フランスの作家、マルキ・ド・サドの小説。
感想
怖い話というよりは理不尽、イライラ系の話という印象が強いエピソードです。
個人的には、コンビニのゴミ箱に家庭ゴミを入れまくっているおばさんをもし自分が見かけても、あまり怒りの感情が湧かないから、主人公の男の人に対して、そこまでしなくてもよかったのに……という気持ちになってしまった。
物凄くドライに言ってしまえば、おばさんがマナー違反のゴミの捨て方をしていようと、自分自身にとっての被害はゼロな訳です。
また、コンビニのバイト店員の立場からしたらイラッとくるのか? というと、人によるのかもしれませんが、それも結構微妙に感じます。
というのも私自身、大学時代にはコンビニでバイトをしていたんですよね。その時に、似たような家庭ゴミの持ち込みはあったのかもしれないけど、それでも大してイラッとはこなかったんですよね。というのは、ゴミ箱が一杯になっていたとしても、そのプロセスを注視していないからです。
普通にコンビニを使う人のゴミ捨てで一杯になったのかもしれないし、あるいは家のゴミを持ち込んだ人がいて、飽和に達したのかもしれない。ただ、どちらであっても仕事としてゴミ袋が一杯になっていたら取り替えるまでであって、品出しやレジ打ちをしてる最中、ゴミ箱がどういう過程を経て一杯になったかなんて関心が無かったんですよね。だから、この話のようにゴミ箱に家庭ゴミを入れられたとしても、多分大して気にならないし、事実気にしていなかったのですね。
なお、作中のおばさんはゴミを捨てたら、そのままとっとと帰ってますが、場合によってはそうしてゴミを捨てる目的でコンビニに立ち寄った人が、ついでに何かを買っていくケースもあります。そう考えると、集客が見込めるという見方もできる。
まあ、可燃物以外のゴミをごちゃごちゃした状態で出されるとしんどいかもしれませんが。ただ、おばさんは定期的に捨てているのだから、多分普通に可燃ゴミが溜まる度に捨てているだけなのかなと思った次第です。主人公の男も、おばさんのゴミの中身まで考えて憤っている訳ではありませんし。
よって、本来そこまで男がヒートアップする必要も無かったわけで、だからこそ命を落として可哀想という感情になりました。おばさんに対して同じく憤る女性の存在、そして昼間のバスでの出来事といった、彼が発奮するに至るパズルのピースが揃ってしまったのが、ただただ不幸でした。
なお、実は主人公の男も、よく見ると信号無視をしています。彼自身も、モラル違反の行為を犯していたのです。ラストに轢かれる事となったのは、その因果ですね。
「悪徳の栄え」というサブタイトルの意味は、素直にそのまま受け取れば良さそうです。ゴミ捨てを注意しようとした"善"側である男が事故に遭い、そのきっかけを作った"悪"であるおばさんがそれを物笑いの種にして楽しんでいる不条理、それを表しているのでしょう。
主人公の男も信号無視している点では"悪"の部類に入るのですが……そのまま我関せずの姿勢でおばさんを放置して、見て見ぬ振りという"悪"を貫いていれば、彼が轢かれる事はなかったのだと考えると尚更切なくなります。
ところで、「自宅の生活ゴミを他所で出す」というモラル違反の行為が出てくる作品として印象深いのが、貫井徳郎さんの小説『乱反射』です。
この作品は、2018年にメ〜テレ(テレビ朝日系列)で妻夫木聡さんと井上真央さん主演でドラマ化されました。
放映されたのは昨年の事なので、内容が記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
この作品は、本エピソードのようなモラルハザードが幾つも重なった結果、ある悲劇が起こってしまうというストーリーです。やるせなさ、後味の悪さ、そして何より、自分自身も普段、実は小さなモラル違反行為を行っており、それが気付かない所で他人の不幸に繋がっているのではないかと考えさせられる点などがあり、とても読み応えのある作品です。興味が湧きましたら、是非ご一読下さい。
12話「失われた時を求めて」
動画リンク
タイトルの由来
フランスの作家、マルセル・プルーストの小説。
失われた時を求めて 文庫版 全13巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ)
- 作者: マルセル・プルースト,鈴木道彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/07/02
- メディア: 文庫
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感想
お姉さんの発想力が凄い、とまず思わされた。玄関に挟まれていた紙幣から、その経緯をよく想像できたなぁと感心する。
ひょっとしたら、紙幣に何らかのメッセージが書かれていたのかもしれないが、それにしたって微に入り細に入り説明が書かれていたとは思えない(何となく)。せいぜい、感謝の言葉? くらいかなと。なので、何らかのヒントがあったとしても、答にきちんと辿り着けたお姉さんは優秀だと思った。
しかし、あの僅か一瞬を男が見逃さなかったのもまた凄い。たまたま見かけたと考えることもできるが、彼女の部屋を常に男が注視していたから見逃さなかったのだと考えると、話の薄気味悪さはより増す事となる。
なお、元ネタの『失われた時を求めて』は超長い小説です。学生の頃に読んでみようと思いましたが、翻訳の文章が肌に合わなかった事もあり、1巻で投げ出しました。
ちなみに、この小説は冒頭で主人公がマドレーヌを口にし、その時の味覚から、これはあの時に食べたマドレーヌと同じ味……という風に過去を回想する形でストーリーが展開されます。
ここから転じて、人が何らかの匂いを嗅いだ際に、その匂いと結びつく過去の出来事を思い出すという現象のことを、本作の著者名から取って「プルースト効果」と呼びます。
さて、そんな事を頭に入れた上でサブタイトルを最初に見た時は、ひょっとして何らかの匂い(悪臭など)が絡んでくるエピソードなのか? と身構えました。結果的にそんな事は無かったので、胸を撫で下ろしたのですが。
失われた時というのは、普通に考えてタオルが落ちたあの刹那の事を指しているのでしょうね。となると、それを求めるのは部屋を見つめていた男と解釈するのが妥当でしょう。よって、このサブタイトルは単純に、"チップ"を差しだしたあの男の心情を表現したものと思われます。
以上、ドラマ『ホラーアクシデンタル』11〜12話の感想でした。